研究課題/領域番号 |
21K06516
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
近藤 啓 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10825110)
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研究分担者 |
照喜名 孝之 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (30784574)
金沢 貴憲 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (60434015)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナノファイバー / 難溶解性薬物 / 非晶質固体分散体 / 放出制御製剤 / 電界紡糸 |
研究実績の概要 |
本研究では、非晶質固体分散体を含み、長期に亘って薬物の非晶質状態を維持しつつ、製剤からの難溶解性薬物の放出速度の持続的な制御を可能とするナノファイバー(NF)製剤技術を確立することを目的としている。 難溶解性のモデル薬物としてイトラコナゾール(ITZ)を、徐放性高分子基剤としてポリ乳酸(PLA)を、また、薬物の非晶質の安定性向上を期待してヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMC-AS)を用いた。ITZ、PLA、HPMC-ASの添加割合が異なる3処方をジクロロメタン/ジメチルホルムアミド混合溶液に溶解し、電界紡糸法でNFをシート状に調製した。調製した各NFの表面形状や繊維径を走査型電子顕微鏡、ITZの結晶性をX線回析(XRD)と示差走査熱量測定(DSC)で評価した。NFからの薬物溶出試験では、経時的に溶液中のITZ量を高速液体クロマトグラフィーで測定するとともに、試験後回収したNF中のITZの結晶性をXRDで評価した。 調製した各NFは、いずれも繊維径が900 nm程度の微細な繊維形状であった。XRDより、いずれの処方においてもNF中のITZは非晶質状態であることが示唆された。DSC測定から見積もられたITZのガラス転移温度は、 NF中のHPMC-ASの割合が増えるにつれて上昇した。HPMC-ASは NF中のITZの非晶質状態の安定化に寄与しているものと考えられた。溶出試験開始後30日目での溶出率は、HPMC-ASを含まないNFでは7%程度であったが、HPMC-ASを添加したNFでは20%程度であり、いずれも持続的な溶出を示した。また、溶出試験30日時点で回収したいずれのNFにおいても、薬物の結晶ピークは確認されなかった。 以上より、本研究ではNF製剤を安定的に製造可能とする条件を絞り込むとともに、評価手法ならびにデータ解析の進め方に関する基礎的知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノファイバー(NF)の繊維径は基剤の物理化学的特性に依存するところが大きいが、電界紡糸に用いる薬物と高分子基剤の溶解液の溶媒および粘度の検討に加えて、紡糸条件(印加電圧、スピナレットからファイバーを収集するまでの紡糸距離、流速、温湿度)を制御することで直径が1000 nm以下の繊維形状を呈するNF製剤が再現よく調製されることが確認された。溶出試験の条件設定の検討が終了し、NF製剤の溶出試験を行い、薬物溶出速度を見積もることに成功した。長期間に亘り、NF中で薬物の非晶質状態を安定的に存在させるために、安定化剤の役割を期待してヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMC-AS)を含むNF製剤処方の検討も進めている。示差走査熱量測定(DSC)による熱力学的評価ではHPMC-AS添加により薬物のガラス転移温度が上昇し、非晶質状態の安定化に寄与することが考えられた。現在、溶出試験30日までの評価ではHPMC-ASを含まない処方でも薬物は非晶質を維持しているが、30日以降の長期に亘る評価において、HPMC-ASがNF中の薬物非晶質の安定性の維持に貢献するものと期待している。また、走査型プローブ顕微鏡での評価にも着手しており、NFの撮像が可能であることを確認している。現在、表面状態の物性値を得るために適切なカンチレバーの選択作業を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いてナノファイバー(NF)製剤の表面特性(粘弾性)を定量化できる測定条件を決定し、調製直後および安定性試験実施後のNF製剤の表面特性解析することで、薬物の結晶性に加え、表面特性の変化についても検討を加える。これまでに、NF製剤の安定性を表面特性の観点から捉えた報告は少なく、本検討はNF製剤の設計を可能とする開発技術の確立に有益な情報を提供するものと考えられる。また、長期に亘る溶出試験を行い、80%以上の薬物溶出を示すまでの溶出挙動を取得する。薬物が30%、50%、80%溶出した時点でのNF製剤の状態(表面状態ならびに残存NF中での薬物の結晶性)を評価するとともにSPMにて粘弾性を測定し、放出制御基剤の特性と薬物放出性、溶出試験期間におけるNF製剤中での薬物の安定性との関連性を把握する。さらには、動物でのバイオアベイラビリティを評価し、長期に亘り、難溶性薬物の放出性を制御するNF製剤の設計に求められる技術的特徴を明らかにする。
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