研究課題
本研究では、薬物の非晶質を維持するとともに持続放出を可能とするナノファイバー製剤技術の開発を目的としている。有機溶媒に難溶性のモデル薬物であるグリセオフルビン(GRF)、放出制御高分子基剤であるポリカプトラクトン(PCL)、さらには、薬物の非晶質を安定化することを狙いとして、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMC-AS)またはSolplusを溶解させ、混合溶液を高圧電界中で紡糸し、一晩真空乾燥させることでナノファイバーシート(NFS)を得た。得られたNFSの物性と、20℃/相対湿度60%の条件にて1週間保存した後のNFS中での薬物の結晶性を粉末X線回折(XRD)にて評価した。また、溶出試験によりNFSからの薬物溶出性についても評価した。XRD、示差走査熱量分析(DSC)の結果よりHPMC-ASまたはSolplusを含むNFSではいずれも結晶由来のピークは確認されず、調製直後、薬物は非晶質で存在することが示された。一方、GRFとPCLで調製されたNFSでは、DSCにて僅かな吸熱ピークが確認され、一部のGRFが結晶化している可能性が示された。また、赤外スペクトルの分析から、APMC-ASを含むNFS内では、水素結合の関与が示唆された。保存後、HPMC-ASを含むNFSでは薬物の非晶質が維持されたが、他のNFSではGRF結晶由来のピークが確認された。この結果より、HPMC-ASはNFS中でGRFの非晶質安定化作用を有することが示唆された。溶出試験では、HPMC-ASを含むNFSでは、GRFとPCLからなるNFSに比してGRFの溶出率の向上が観察された。HPMCASがGRFの結晶化を抑制したことが要因として考えられる。以上より、PCLを基剤とするNFSにHPMC-ASを添加することで、難溶性薬物の非晶質を安定化させ、溶出性を長期に亘り持続できる可能性が示された。
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