研究課題/領域番号 |
21K06518
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
関根 嘉香 東海大学, 理学部, 教授 (50328100)
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研究分担者 |
平林 健一 東海大学, 医学部, 准教授 (60514388)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 皮膚ガス / がん / 体臭 / 診断 / 非侵襲 / におい |
研究実績の概要 |
がんは主に血液検査、画像検査、組織細胞検査により診断されている。しかしこれらの検査方法は少なからず患者への侵襲を伴い、また膵がんのように早期発見が困難な腫瘍も少なくない。一方、がん患者から放散する生体ガスには特有の「におい」があることが知られている。そこで本研究では、体臭の原因となる「皮膚ガス」に着目し、がんと診断された患者の皮膚ガスをパッシブ・フラックス・サンプラー法により捕集し、ガスクロマトグラフ-質量分析計により分離・定量することにより、がん患者に特徴的な皮膚ガス組成を明らかにすること、さらにがんの早期診断に寄与する簡便・非侵襲的な評価方法を開発することを目的とした。令和3年度は、膵がんと診断された入院患者に焦点をあて、膵がん患者(19名, Stage II-IV)および健常者(16名)を対象に前腕部において測定した皮膚ガス74成分について解析した。その結果、膵がん患者と健常者では、いくつかの成分の放散フラックスに有意な差が見られた(Wilcoxonの順位和検定)。健常者群に比べてがん患者群で有意に高い値を示した皮膚ガス成分は、2-エチル-1-ヘキサノール、ノナナール、デカナール、2-ノネナール、酪酸、2-オクタノン、キシレン、スチレンおよびp-ジクロロベンゼンであった。一方、がん患者群の方が有意に低い値を示した皮膚ガス成分は、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ノナノール、デカノール、プロパナール、2-ヘキセナール、酢酸、2-ペンタデカノン、6-メチル-5-へプテン-2-オン、酢酸-3-ヘキセニル、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、アリルメチルスルフィド、γ-ラクトンおよびバニリンであった。この皮膚ガス組成を基に因子分析を適用した結果、がん患者群と健常者群を大別することができ、皮膚ガス組成によってがんの判別ができる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は進行がんとして発見されやすい膵がんに着目し、膵癌患者と健常者の皮膚ガス放散フラックスをパッシブ・フラックス・サンプラー/ガスクロマトグラフ-質量分析法により測定して比較検討した。その結果、いくつかの成分の放散フラックスに有意な差が見られた。また、さらに因子分析を適用した結果、膵がん患者群では外因性化学物質およびアセトアルデヒド、ヘキサナール、ノナナール、デカナール、オクタン酸で特徴づけられる皮膚ガス組成を示し、健常者群との判別が可能になることが示唆された。この結果は、がんの診断を目的とした判別アルゴリズムの開発に有用である。尚、本助成金によりオートインジェクタが導入でき、検体分析が著しく合理化された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、東海大学医学部付属病院等においてがん患者を募集し、皮膚ガスの捕集・分析を行い、症例数を蓄積する。がんの種別ごとに概ね20症例集まった段階で健常者との比較を行い、多変量解析(因子分析、判別分析)や階層型ニューラルネットワークなどにより解析し、がんの早期診断に有用なメソッドを検討する。尚、がん患者群には高齢者が多く含まれるため、高齢の健常者(または良性疾患患者)の皮膚ガスデータについても拡充する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がオンライン開催になり旅費が発生しなかったこと、また学術論文の掲載費用が発生しなかっため次年度使用額が発生した。この分を令和4年度の研究発表に充当する。
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