研究課題/領域番号 |
21K06524
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
河野 裕允 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (60732823)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マクロファージ / リポソーム / がん治療 / EPR効果 / 腫瘍血管 |
研究実績の概要 |
本研究では、腫瘍内のマクロファージの極性をM2型からM1型へ転換することで腫瘍内環境を薬物送達に適した状態に整備し、抗がん剤内封リポソーム製剤の腫瘍組織移行性および抗腫瘍効果を改善することを目指している。令和3年度に、ジスルフィラムをCT26担癌マウスに投与することで、腫瘍内マクロファージの極性をM2型からM1型へ転換できることを確認したため、令和4年度はまず、ジスルフィラムの投与による腫瘍内血管の量的・質的変化の評価を行った。その結果、CT26腫瘍内血管の量的変化は認められなかったが、周皮細胞による裏打ちを伴う血管が増加していることが示された。周皮細胞を伴う血管は機能的に正常であり、そのような血管を多く有する腫瘍組織への高分子送達効率は良好であることが報告されている。そこで、ジスルフィラムを投与したCT26担癌マウスに対してリポソームを投与したところ、未処置のマウスと比較してリポソームの腫瘍組織蓄積量が有意に増大した。これらの結果は、ジスルフィラムによる腫瘍内マクロファージの極性転換が腫瘍内血管の機能を改善し、腫瘍組織へのリポソーム移行性を向上させたことを強く示唆している。 一方、B16/BL6担癌マウスでも同様の評価を行ったが、ジスルフィラムによる腫瘍内マクロファージの極性転換はほとんど認められなかった。これは、B16/BL6腫瘍内には機能的な血管が少なく、腫瘍組織におけるジスルフィラムの蓄積量が不十分であったことに起因すると推察された。そこで、ジスルフィラムを効率的に腫瘍組織へ送達することを目的に、我々が開発に取り組んでいる細胞を基盤としたDDS技術を本研究に応用することを試みた。現在までに、がん指向性を有する細胞に低分子薬物を搭載することで、薬物単体を投与した場合と比較して薬物の腫瘍組織蓄積量を顕著に向上させることができることを明らかにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は当初の研究計画に従い、マクロファージの極性転換に伴う腫瘍内血管の量的・質的変化の解析、およびリポソームの腫瘍組織移行性の変化の評価を行った。一方、腫瘍の種類によってはジスルフィラムの投与によるマクロファージの極性転換が認められなかったため、必要量のジスルフィラムを腫瘍組織へ送達するためのDDS技術の構築も行った。本システムを用いることで、予定していた通り、異なるマウス固形腫瘍におけるジスルフィラムによる腫瘍内マクロファージの極性転換の効果を評価することができると考えており、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、がん指向性細胞を利用したジスルフィラムの腫瘍内送達による腫瘍内マクロファージの極性転換、および腫瘍内血管の機能変化を当初予定していた4種の担癌マウスにおいて評価する。その後、ジスルフィラムの投与によるリポソームの腫瘍組織移行性および抗腫瘍効果の改善効果を検証する。これらの結果を基に、腫瘍内マクロファージの極性転換の程度あるいは腫瘍内血管の分布や機能とリポソームの腫瘍組織移行率との相関を解析し、ジスルフィラムによるリポソームの腫瘍組織移行性改善効果を事前に予測するための評価系の構築を行う。
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