令和3年度は、腫瘍内マクロファージの極性をM2型からM1型へ転換する作用を有するジスルフィラムを効率的に腫瘍組織へ送達するため、マクロファージを基盤としたがん指向型DDSの開発を行った。令和4年度はまず、ジスルフィラムによる血管機能の改善が認められたCT26固形腫瘍に対するPEGリポソームの移行性について評価した。その結果、ジスルフィラム処置によりCT26固形腫瘍へのリポソーム移行量が顕著に増大することが明らかとなった。続いて、血管透過性が低いことが知られているB16/BL6固形腫瘍に対するジスルフィラム処置による血管透過性の変化について評価した。B16/BL6担癌マウスに対してジスルフィラム搭載マクロファージを静脈内投与した後、腫瘍内血管の量的・質的変化を評価した結果、血管内皮細胞数の増大および周皮細胞数の減少が確認され、透過性の高い血管が再構築されている可能性が示された。そこで、ジスルフィラム処置した担癌マウスに対してPEGリポソームを静脈内投与した結果、未処置の担癌マウスと比較してリポソームの腫瘍組織移行量が有意に多いことが明らかとなった。 次に、各担癌マウスにおけるドキソルビシン内封PEGリポソームの抗腫瘍効果を評価した結果、いずれの担癌マウスにおいても、ジスルフィラム搭載マクロファージを前処置することで抗腫瘍効果が顕著に増大することが示された。この時、CT26固形腫瘍については周皮細胞数、B16/BL6固形腫瘍については血管内皮細胞数が抗腫瘍効果の程度と相関している可能性が示された。 以上より、ジスルフィラムによる腫瘍内マクロファージの極性転換に基づく腫瘍内環境の改善により抗がん剤内封リポソーム製剤の抗腫瘍効果を向上させることができることを明らかにした。また、腫瘍内の血管内皮細胞数や周皮細胞数が治療効果の程度を予測し得るマーカーとなる可能性を示した。
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