ATTRアミロイドーシスは野生型および変異型トランスサイレチン(TTR)が加齢に伴いアミロイド線維を形成して発症する難治性疾患であるが、加齢がどのようなメカニズムで発症に影響を及ぼすかは不明である。本研究では、細胞外環境の酸化還元(レドックス)バランス変化がATTRアミロイドーシスの加齢依存的な発症を制御するか線虫をモデル生物として明らかにすることした。申請者は、TTR単量体間での変性依存的なジスルフィド結合形成による二量体化がアミロイド形成の律速段階となることを発見している。本年度は、線虫内で生じるジスルフィド結合TTR二量体をNanoLuc Binary Technology (NanoBiT) システムにより検出するトランスジェニック線虫を作製して,ジスルフィド結合TTR二量体が加齢に伴い増加するか検討した.作製した線虫株には細胞外環境(体腔中)で形成されたジスルフィド結合TTR二量体を特異的に検出できるように構造相補性レポーターであるNanoBiTの各サブユニットを融合したTTRを異なる器官(咽頭筋、体壁筋)からそれぞれ分泌させる発現モデルを採用した.各日齢の線虫ライセート中のジスルフィド結合TTR二量体量を発光測定により評価したところ、野生型TTRを発現する線虫株では加齢に伴い発光量が増加し,ジスルフィド結合形成に関わるシステイン残基に変異を導入したTTRを発現する線虫株では加齢依存的な発光量の増加は認められなかった.興味深いことに、線虫ライセート中の発光成分は大部分が不溶性画分に存在していたことから、ジスルフィド結合TTR二量体は不溶性凝集体として加齢に伴い蓄積することが明らかになった。以上の結果より、ATTRアミロイドーシスは加齢によるジスルフィド結合TTR二量体形成を原因として発症する可能性が示唆された。
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