研究課題/領域番号 |
21K06532
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
塚本 宏樹 国際医療福祉大学, 福岡薬学部, 准教授 (70423605)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 食物アレルギー / Toll様受容体 / MDSC / IgE / 肥満細胞 / 自然免疫 / リポ多糖 / モノクローナル抗体 |
研究実績の概要 |
衛生環境の改善による自然免疫応答の質的量的変化とそれに伴う獲得免疫の変調がアレルギー増加と関係する。本研究は、アレルギー根治を目指す治療戦略の創出を目的に計画され、Toll様受容体4(TLR4)刺激抗体が食物アレルギーマウスの抗原感作を抑制(予防)するだけでなく、成立したアレルギー病態の増悪化も抑制することを見出した。さらにTLR4刺激抗体の抑制効果の機序として、アレルギーモデルマウスの腸管肥満細胞を減少させること、血中肥満細胞活性化マーカーMCPT-1の上昇を抑制すること、マウス骨髄細胞由来肥満細胞がTLR4を細胞表面に発現することを明らかにしてきた。 本年度は、TLR4刺激抗体が肥満細胞に結合し、アレルゲンによる脱顆粒反応を直接抑制する食物アレルギー抑制機序を検証した。その結果、骨髄由来肥満細胞において、IgE刺激誘発性の脱顆粒反応をTLR4刺激抗体は抑制しなかった。一方、グラム陰性菌リポ多糖に対する炎症性サイトカインの産生は有意に抑制した。アレルギーマウス腸管の肥満細胞はPAMPs等の腸内細菌由来成分に暴露されていることが予想される。TLR4刺激抗体はこの炎症反応を抑制している可能性が示唆された。次に、TLR4刺激抗体は抗原特異的T細胞増殖反応をin vivoで抑制することから、アレルゲン特異的抗体価に対するTLR4刺激抗体の抑制効果を検討した。その結果、TLR4刺激抗体によって食物アレルギーの発症が抑制されたマウスでは、感作前・感作後の抗体投与に関わらず、血中抗原特異的IgE抗体が有意に減少した。これらの結果から、TLR4刺激抗体が肥満細胞による炎症性サイトカイン産生反応を直接抑制すること、また、抗原特異的リンパ球の活性化を間接的な機序で抑制することが強く示唆された。TLR4刺激抗体による多段階における複数の食物アレルギー抑制機序を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
食物アレルギーモデルの作製とTLR4刺激抗体の予防・治療効果の検証は予定通り終了し、本年度はそのメカニズムについて詳細に検討する計画であった。具体的には、TLR4刺激抗体が肥満細胞を直接抑制する作用機序について骨髄由来肥満細胞を用いたin vitroからの検証と受身アナフィラキシーモデルマウスを用いたin vivoからの検証が主な計画である。骨髄由来肥満細胞を用いたin vitroからの実験はある程度予定通り順調に進められ、想定されうる有意義な結果も得られた。一方、受身アナフィラキシーモデルマウスを用いたin vivoにおける実験は本学の実験動物飼育施設の稼働が遅れ、研究計画に遅れが生じた。以上の理由から、全体の研究進捗状況としてはやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
TLR4刺激抗体による肥満細胞抑制作用について、マウス骨髄由来肥満細胞と受身アナフィラキシーモデルマウスを用いて解析する。特にTLR4刺激抗体は骨髄由来肥満細胞のグラム陰性菌リポ多糖刺激に対する応答性を強く低下させることが明らかになったため、細胞表面におけるTLR4発現量の変化やTLR4シグナルを伝達する経路について解析したい。また、詳細な分子レベルでの解析を可能にするために、主要なTLR4シグナル伝達経路に関わるアダプタータンパク質の遺伝子欠損肥満細胞株をゲノム編集によって作製し、その機能的な変化を解析したい。 昨年度解析できなかったTLR4刺激抗体によるアレルゲン反応性リンパ球の抑制作用について、腸管リンパ節や脾臓細胞のアレルゲン特異的増殖反応、サイトカイン産生、樹状細胞・B細胞等におけるMHC、T細胞副刺激分子の発現量、抗原特異的B細胞数の変動を解析したい。特に制御性T細胞やミエロイド由来免疫抑制細胞の数的変化やこれら細胞をCD25抗体やGr1抗体を用いて除去した場合のアレルギー抑制効果の減弱について解析したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、本年度に予定した実験計画に遅れが生じたことによる。具体的には、本学福岡薬学部動物飼育施設の稼働が遅延し、当初予定した受身アナフィラキシーモデルマウスを用いた動物実験等が大きく遅れたことによる。前任校や本キャンパス内の他学部動物実験施設も本年度は使用しにくい環境であったため、培養細胞を用いたin vitroの実験のみを進めざるを得ない状況であった。細胞培養環境は、共同培養室に加え、前年度に経費を前倒し請求し設置したクリーンベンチとCO2インキュベーターを利用できる環境にあり、研究を進める上でボトルネックにはなっていない。次年度に本学部の動物飼育施設が正常に稼働し利用できる状況になり次第、一時中断している動物実験や初代培養細胞を用いたin vitro 実験に着手する。本年度に生じた残額はこれら研究の遂行に必要な消耗品費として全て次年度に利用する予定である。
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