研究課題
申請者はNASH発症に伴う肝臓の体内時計システムの変調が線維化を進展させることを見出し、昨年度においてNASH線維化の概日リズムには、炎症などの発症要因が関与することを明らかにした。本年度は、NASH線維化の概日リズムについて線維化促進因子であるTGFβシグナル活性を検討した。NASH発症マウスの肝臓においてTgfβ1mRNA発現量において日内変動は見られなかったが、TGFβ1タンパク質発現量は、ZT(zeitgeber time)2,6に高くなることが示された。また、それに伴ってSMAD2/3活性の増大が見られた。したがって、NASH線維化の概日リズムはTGFβ/SMADシグナル活性と連動していることが示された。TGFβ1タンパク質発現量に日内変動があったことから、Tgfβ1 mRNAの翻訳あるいは分解が要因で概日リズムを示すことが示唆された。近年、TGFβ1タンパク質発現にRNA結合タンパクによる制御機構が存在することが報告されている。そこで、TGFβ1タンパク質の安定化あるいは翻訳に関連するRNA結合タンパク質をUVクロスリンキング法によって探索した。その結果、Tgfβ1 mRNAの5’非翻訳領域(UTR)+302~+480の配列にZT6に多く発現し、ZT18で発現が減少するmRNA結合タンパク質が存在し、分子量60KdaのRNA結合タンパク質であることを見出した。現在、そのタンパク質の同定を進めている。また、肝細胞の時計遺伝子BMAL1の欠損に伴って肝臓Tgfβ1 遺伝子発現量が増加することを見出している。そこで肝臓に責任細胞、その制御メカニズムについて検討した。その結果、NASH発症に伴う肝細胞内のTgfβ1発現量の誘導がBMAL1欠損に伴って増加することが示された。さらに、体内時計によるTgfβ1 遺伝子の発現制御及びNASH発症機構について解析を進めている。
3: やや遅れている
本年度の研究で、NASH発症に伴う肝線維化の概日リズムは、TGFβ1のタンパク質発現量の日内変動に連動していることを明らかにした。実際、TGFβ1の下流に位置するSMADのリン酸化、線維化関連遺伝子の発現制御においても同様の日内変動が認められた。TGFβ1タンパク質発現量の日内変動は、翻訳あるいは安定化に関与していることが示唆された。UVクロスリンク法でTGFβ1のUTRに結合するRNA結合タンパク質を探索するための条件設定に時間を要してしまった。BMAL1欠損に伴うTGFb1mRNA発現量の増加についての解析では、肝細胞における発現量が増加しているが明らかになったが、その発現調節機構についての解析を進めているが、やや遅れている。
NASHに伴う肝線維化の増悪化は肝がんへと進展することから、次年度は体内時計システムの変調に起因したNASH由来肝がんの発症及び増悪化について検討する。NASH由来肝がんの発症モデルマウスの作製には時間を有する。その期間に、NASH発症マウスの肝臓においてTgfβ1 mRNAの5’非翻訳領域UTR+302~+480の配列に結合する分子量60KdaのRNA結合タンパク質を同定するとともに、肝臓BMAL1によるTgfβ1遺伝子の時間依存的な発現調節機構の解明についても同時に進める予定である。
2022年度は、BMAL1によるTgfβ1遺伝子発現制御機構の解析及びTGFβ/タンパク質の概日リズムの解析が予定よりも進まなかったため、その費用を次年度に当てて使用する予定である。
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