ユビキチン・プロテアソーム系はタンパク質恒常性維持に必須の役割を果たしている。これまでポリユビキチン鎖形成機構の生化学的観点からの解明が進んできたのに対し、細胞内でいかにして特定のポリユビキチン鎖が特異的かつ効率的に形成されるのか、メカニズムは十分にはわかっていない。私達はごく最近、プロテアソーム液滴構成因子と相互作用するユビキチン鎖伸長因子群を見出した。そこで本研究ではこれらユビキチン鎖伸長因子群による分解制御の標的となる基質タンパク質群を同定し、細胞内でのタンパク質分解メカニズム解明を目指した。 まず、ユビキチン鎖伸長因子群の基質候補群を網羅的に同定した。Tandem Mass Tag (TMT)による安定同位体標識と超高感度質量分析計を用いた定量プロテオミクスにより、最大16検体から約8000個のタンパク質存在量を網羅的に比較定量を行った。各条件の細胞から作製した抽出液をトリプシン消化し、ペプチド断片をTMT試薬で標識し、各サンプルを混合してLC-MSにより定量を行った。この際、ユビキチン鎖伸長因子群のノックダウンのみではタンパク質分解の効果を見極めることが難しいことから、翻訳阻害剤であるシクロヘキシミド添加時のタンパク質存在量の変化を同時に定量することで、細胞内半減期が十分に短い基質を絞り込むこととした。その結果、当研究室で解析してきた複数のユビキチン鎖伸長因子群について、標的タンパク質の候補群を同定することに成功した。また、ユビキチン鎖伸長因子群の細胞内局在およびプロテアソーム、プロテアソーム液滴構成因子との共局在についても検討を行った。
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