研究課題/領域番号 |
21K06540
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
井上 雅己 神戸学院大学, 薬学部, 助教 (80757097)
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研究分担者 |
角田 慎一 神戸学院大学, 薬学部, 教授 (90357533)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍壊死因子 / TNF阻害薬 / 1型TNF受容体 |
研究実績の概要 |
自己免疫疾患治療にTNF阻害薬が奏功しているが、結核の再燃や脱髄症状の悪化などの懸念がある。我々は、これまで、感染防御能や制御性T細胞の活性化能の維持を期待して、免疫疾患の炎症病態を担うTNFR1シグナルだけを選択的に阻害するTNFR1選択的アンタゴニスト「T2」の開発を進めてきた。T2は関節リウマチや多発性硬化症の疾患モデルマウスで治療効果を示したが、血中安定性が低く、実用化への課題があった。そこで本研究では、免疫疾患治療に資する新規モダリティとして、T2の抗炎症作用や体内安定性を向上させるため、タンパク質工学の技術を駆使して、3量体構造の一本鎖化及びIgG-Fc融合による構造最適化を図ったT2誘導体「scT2-Fc」の創製を試みた。scT2-Fcは、(i) 2価のT2が炎症をより強力に抑制する、(ii)分子量増大やリサイクリング機構が血中半減期を延長する、(iii) TNFR2シグナルの温存が制御性T細胞による免疫抑制活性を示すなど、治療効果が増強され、低投与量・低投与回数で抗炎症作用が期待できる。本年度は、scT2-Fcのレセプター結合性やTNFシグナル阻害活性、生体内安定性が向上したことを明らかにするため、in vitroでの分子特性解析を行った。また、マウスでの薬物動態解析を行った。その結果、scT2-Fcは、TNFR1選択的アンタゴニスト活性を示しながら、熱安定性が向上したことがわかった。さらに、動態解析の結果、Fc融合により、scT2-Fcは抗TNF抗体と同等の血中滞留性を示した。今後は、関節リウマチモデルマウスでの薬理効果を評価し、scT2-Fcの優位性を調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、TNFR1アンタゴニスト「T2」のFc融合体として、scT2-Fcを作製した。そこで、Fc融合によってscT2-Fcが高機能化したことを検証するため、レセプター結合性やTNF阻害活性、熱安定性などin vitroでの特性解析を行った。生体分子相互作用解析装置(BIAcore)でTNFR1/R2への選択性・結合力を調べた結果、scT2-Fcは、T2と同様にTNFR1に選択的な結合親和性を示した。また、細胞傷害アッセイでTNFR1に対するTNF阻害活性を調べた結果、scT2-Fcは濃度依存的にTNFを競合阻害しており、T2と同様にTNFR1に対するアンタゴニスト活性を示すことが分かった。さらに、示差走査蛍光定量法(DSF)を用いたサーマルシフト解析を行った結果、scT2-FcはT2に比べて変性温度が高温側にシフトしており、熱安定性が向上した。また、マウスでの薬物動態の解析を行った。マウスにscT2-Fcを単回投与した後、経時的な採血によって血漿を回収し、抗ヒトIgG-Fc ELISAによってscT2-Fcの血中濃度を測定した。得られた血中濃度の推移からモーメント解析により薬物動態パラメーターを調べた結果、T2が24時間以内に消失するのに対して、scT2-Fcの血中滞留性は向上しており、抗TNF医薬と同等の血中半減期であることがわかった。したがって、scT2-Fcは、T2がもつTNFR1選択的アンタゴニスト活性を保持しながら、体内安定性が大きく促進したと考えられた。現在まで計画に沿って課題は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、新規TNFR1シグナル選択的阻害薬として創製したscT2-Fcの分子特性解析を行い、TNFR1選択的アンタゴニストとしての作用を見出した。今後は、計画に沿って、既存の抗TNF医薬に対する優位性や、TNF阻害メカニズムの違いが関節リウマチ治療に及ぼす影響を調べるため、関節炎マウスを用いてscT2-Fcの薬理効果を検証する。コラーゲン誘導関節炎マウスを作製し、scT2-Fcを継続的に投与した場合の病態抑制効果を調べるとともに、免疫学的解析によって抑制メカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定と大きな変更はないものの、物品価格の変動によって次年度使用額が生じた。次年度、消耗品の購入に充てる。
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