自己免疫疾患治療にTNF阻害薬が奏功しているが、結核の再燃や脱髄症状の悪化などの懸念がある。我々は、これまで、感染防御能や制御性T細胞の活性化能の維持を期待して、免疫疾患の炎症病態を担うTNFR1シグナルだけを選択的に阻害するTNFR1選択的アンタゴニスト「T2」の開発を進めてきた。T2は関節リウマチや多発性硬化症の疾患モデルマウスで治療効果を示したが、血中安定性が低く、実用化への課題があった。そこで本研究では、免疫疾患治療に資する新規モダリティとして、T2の抗炎症作用や体内安定性を向上させるため、タンパク質工学の技術を駆使して、3量体構造の一本鎖化及びIgG-Fc融合による構造最適化を図ったT2誘導体「scT2-Fc」の創製を試みた。scT2-Fcは、(i) 2価のT2が炎症をより強力に抑制する、(ii)分子量増大やリサイクリング機構が血中半減期を延長する、(iii) TNFR2シグナルの温存が制御性T細胞による免疫抑制活性を示すなど、治療効果が増強され、低投与量・低投与回数で抗炎症作用が期待できる。本年度は、scT2-Fcと既存の抗TNF抗体とのTNFシグナル阻害メカニズムの違いが免疫疾患の病態抑制に及ぼす影響を調べるため、関節リウマチモデルマウスでの薬理効果を評価した。その結果、scT2-Fcは、抗TNF抗体よりも低い投与量で同等の病態抑制効果を示すことを見出した。したがって、scT2-Fc特有の作用機序であるTNFR1シグナル選択的な阻害作用が、免疫疾患治療薬として有用であることが示唆された。
|