研究課題
カルジオリピンの生合成経路で、ホスファチジルグリセロールリン酸(PGP)の脱リン酸化を担う酵素を肝臓特異的に遺伝子欠損させたマウス(以下、LKOマウス)では、インスリン様成長因子1(IGF-1)分泌不全を呈し、ラロン型低身長症(ヒト成長ホルモン受容体GHRが原因遺伝子として同定されている)様の成長障害を発症した。LKOマウスにおける遺伝子発現の変化をRNA-seqにより網羅的に解析した結果、Ghrの発現低下が認められた。LKOマウスでは、Ghrのみならず、肝の成長に伴う遺伝子発現の変化が全般的に阻害されていた。本研究課題では、ミトコンドリアの脂質代謝異常に起因する遺伝子発現変化の分子機構を探っている。本年度は、RNA-seqの結果を詳細に解析し、ATAC-seqの結果と比較することで、LKOマウスにおける肝の成長に伴う遺伝子発現の全般的な阻害に関わる転写因子の候補を見出すことが出来た。そこで候補となる転写因子群をcDNAクローニングして、発現ベクターを構築した。これらの発現ベクターを用いて、放射性同位体標識されたPGPとの結合能を有するか否かをin vitroで検証した。しかし、直接結合する分子を見出すことは出来なかった。候補となる転写因子群の一部は、構成的に脂質リガンドと結合しているという報告もあるので、in vitroでの結合が検出されない可能性も考えられた。現在、構成的に結合している脂質に変化が無いか検討を行っている。カルジオリピン合成経路の途中の酵素を肝臓特異的に遺伝子欠損させたLKOマウスでは、PGPの増大とカルジオリピンの減少という2つの脂質レベルの変化が同時に引き起こされている。RNA-seqで検出された変化が、いずれの脂質レベルの変化に依存するのかを評価するため、PGPの合成酵素であるPGS1の肝臓特異的な遺伝子欠損マウスを用いて、RNA-seq解析を行い比較検討を行うことで、PGPの増大に依存する遺伝子発現変化を同定する。
2: おおむね順調に進展している
全般的な遺伝子発現の変化の原因となりうる転写因子群を見出すことが出来た。これまでのところ、この転写因子群とPGPの結合を見出すことは出来ておらず、さらなる検証が必要である。
PGPと構成的に結合することで、転写因子の機能が阻害されている可能性を検証するため、転写因子と標的DNA配列の結合を評価し、LKOマウスにおける違いが無いか検証する。カルジオリピン合成経路の途中の酵素を肝臓特異的に遺伝子欠損させたLKOマウスでは、PGPの増大とカルジオリピンの減少という2つの脂質レベルの変化が同時に引き起こされている。RNA-seqで検出された変化が、いずれの脂質レベルの変化に依存するのかを評価するため、PGPの合成酵素であるPGS1の肝臓特異的な遺伝子欠損マウスを作製した。今後、RNA-seq解析を行い比較検討を行うことで、PGPの増大に依存する遺伝子発現変化を同定する。
本年度に実施予定だった実験が一部計画通りに進まなかったため、次年度に行うことになった。次年度、元々次年度に計画していた実験と共に実施し、使用する計画である。
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J Exp Med
巻: 220 ページ: e20222005
10.1084/jem.20222005.