これまでに、Hippoがん抑制経路の中心的キナーゼLATS1/2が転写共役因子VGLL3の活性化を誘導して細胞増殖を促進することを明らかにし(JBC 2020)、その増殖促進機構としてVGLL3による炎症性サイトカインIL-1aの発現と分泌の誘導による転写因子NF-κB活性化が重要であることを見出した(FASEB J 2021)。さらに、LATS1/2によるVGLL3の活性化は、転写因子HMGA2の発現を促進して上皮間葉転換を導き、細胞の運動性を亢進することを明らかにした(J Cell Mol Med 2022)。これらの結果より、VGLL3発現の高いがん細胞では、LATS1/2はがん抑制ではなくVGLL3活性化によるがん促進因子としてはたらくと考えた。今年度は、LATS1/2活性阻害薬を用いてがん細胞におけるLATS1/2の役割について解析を行なった。その結果、LATS1/2活性阻害は細胞増殖促進にはたらく別のキナーゼを活性化することを発見した。その分子機構解析を行い、LATS1/2はこのキナーゼの活性化を促進するアダプタータンパク質と相互作用し、LATS1/2活性阻害はこのアダプタータンパク質の安定性を促進することを見出した。これらのことから、このアダプタータンパク質はLATS1/2の新規基質であり、LATS1/2によるリン酸化によって不安定化していると考えている。LATS1/2のがん抑制にはたらく際の主要な標的は転写共役因子YAP/TAZであるが、これら以外にもこのアダプタータンパク質が重要である可能性が明らかとなった。現在、このアダプタータンパク質のリン酸化部位を解析するとともに、YAP/TAZ、アダプタータンパク質、VGLL3の発現レベルとLATS1/2のがん抑制あるいは促進機能がどのように関連するのか解析を進めている。
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