最終年度、まずは前年度に作製した改良型ワクチンの免疫原性が強くなるしくみを検討した。スパイクタンパク質の発現プロモーターを改良することで、組換えウイルス感染初期のタンパク質発現が促進されることがわかった。この段階のタンパク質発現は、細胞障害性T細胞への抗原提示に関わることが知られている。本改良型ワクチンでも、主要なエピトープで抗原提示能の上昇が見られた。本改良型ワクチンによる免疫応答のうち少なくとも細胞性免疫については、このようなしくみで強くなったと考えられる。 次に、このワクチンと前年度に完成した別のウイルスベクターワクチンを組み合わせて用いたときの免疫応答を解析した。従来型、オミクロンBA.1型のそれぞれについて2種類のウイルスベクターワクチンを作製し、順にマウスに投与した。その結果、改良型のワクチンだけを2回投与するよりも細胞性免疫については最大4倍、血清の中和活性については最大20倍強くなることがわかった。ワクチンを投与すると、親和性の高いB細胞が濾胞性ヘルパーT細胞との相互作用により選別され、中和抗体の産生細胞へと分化する。2種類のウイルスベクターワクチンを順に投与すると、濾胞性ヘルパーT細胞の割合が増えることをたしかめた。さらにこのような免疫応答が、最後の投与から少なくとも4.5ヶ月間持続することがわかった。 本研究を通じて、ウイルスベクターワクチンの有効性やmRNAワクチンなどと比べた免疫応答の特徴を示すことができた。今後の新興・再興感染症に対して、本研究成果がワクチン開発の一助となることが期待される。
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