研究課題/領域番号 |
21K06546
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
關谷 瑞樹 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (70509033)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プロトンポンプ / F-ATPase / S. mutans / S. anginosus |
研究実績の概要 |
う蝕や歯周病は、Streptococcus mutansやPorphyromonas gingivalisなどの口腔内病原細菌が原因の感染症であり、その予防・治療は超高齢化社会に向けた課題である。近年、これらの細菌において、F型、A型プロトン輸送ATPaseが、生存や増殖に重要な役割を果たしている可能性が示された。そこで、本研究課題では、口腔内病原細菌におけるプロトン輸送ATPaseの詳細な役割を明らかにし、共役するイオン・物質輸送体を同定することを目的としている。さらに、それらの分子の機能を阻害する低分子化合物を見出し、う蝕・歯周病の新たな予防・治療戦略を確立することを目指している。本年度は、う蝕の原因細菌であるS. mutansについてF型プロトン輸送ATPase(F-ATPase)βサブユニットの欠損株の作製を試みた。その結果、βサブユニットの発現量が低下した変異株を作製することができた。また、消化器で膿瘍を形成し、近年食道がんの高リスク因子であることが示唆されているStreptococcus anginosusについてもF-ATPase βサブユニット欠損株を作製した。これらのF-ATPase変異・欠損株の表現系を検討したところ、いずれの細菌株も中性条件での増殖速度は野生株とほぼ同等であった。一方、酢酸によりpHを5.3に低下させた培地では、F-ATPase変異・欠損株は野生株に比べ、増殖速度が顕著に低下した。さらにpHを低下させた培地で生存率を評価すると、F-ATPase変異・欠損株は生存率が大きく低下することが明らかになった。したがって、これらの病原性の高い口腔内のレンサ球菌においてF-ATPaseは、耐酸性に重要な役割を果たしていることが示唆された。研究成果は、第94回日本生化学会大会、日本薬学会第142年会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、レンサ球菌においてF-ATPaseが耐酸性に重要な役割を果たしていることを示唆した。F-ATPaseは一般にATP合成酵素として知られており、これは口腔内細菌における独自の役割であると考えられる。研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
口腔内病原細菌のF-ATPaseは、耐酸性に関与していることが示唆された。したがって、これらの細菌で同酵素は、ATPを合成する場合とは異なるイオン輸送体と共役し、独自のイオン輸送ネットワークを形成していると予想される。今後は、S. mutans、及びS. anginosusにおいてF-ATPaseと共役している可能性のある陰イオン輸送体の欠損株を作製しその表現型を評価する。欠損株の耐酸性が低下していれば、F-ATPaseと共役している可能性が高い。また、S. anginosus はF型だけでなくA型プロトン輸送ATPase(A-ATPase)も有する。A-ATPaseの役割を明らかにするため、遺伝子欠損株を作製し、表現型を検討する。並行して、S. mutans、S. anginosusのF-ATPase、P. gingivalis、S. anginosusのA-ATPaseのリコンビナントタンパク質の精製を行い、特異的阻害剤を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は口腔内病原細菌のF-ATPase遺伝子変異株の作製を優先して進めたため、F-、A-ATPaseのリコンビナントタンパク質の精製が次年度に繰越しとなった。そのため、その分の次年度使用額が生じた。
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