研究課題/領域番号 |
21K06547
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
福田 友彦 東北医科薬科大学, 薬学部, 准教授 (40433510)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | α1,6フコシル化 / Fut8 / 神経炎症 |
研究実績の概要 |
N-結合型糖鎖の根元にα1,6フコースを転移する糖転移酵素(Fut8)欠損マウスの脳ではグリア細胞の活性化・炎症反応が生じ易いことを見出し、さらにFut8ヘテロ欠損マウスが野生型マウスとの中間の表現型であった。これらは、生理的な状況ではα1,6フコースによりグリア細胞の活性化が抑制されていることを強く示唆していることから、α1,6フコシル化の減少が炎症反応に対する脆弱性を増すのであれば、α1,6フコシル化を増加させれば炎症反応を抑制できると考え、実験を進めている。これまで、Fut8ヘテロ欠損マウスはLPSを用いて誘導した炎症応答が野生型より大きいことと、L-フコースの投与によるFut8のドナー基質であるGDP-フコース合成のsalvage経路活性化を介したFut8の活性化による炎症抑制効果を明らかにしている。 今年度は、そのメカニズムを理解するために、LPS 刺激により神経炎症を誘導するミクログリア細胞注目した。Fut8ヘテロ欠損マウスにL-フコースを投与するとJAK2、Akt、STAT3 のリン酸化レベルなど、IL-6 の下流細胞シグナル伝達が抑制された。さらに、Fut8ヘテロ欠損マウスでは、IL-6 などのサイトカインの共通受容体サブユニットである gp130 のフコシル化レベルが低下しているが、L-フコース投与によってフコシル化が回復した。これらの結果は、L-フコース投与によるタンパク質のα1,6フコシル化が神経炎症において重要な役割を果たしており、L-フコースが神経炎症に対する潜在的な予防化合物であることを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳内における抗炎症作用薬が統合失調症の治療における増強療法の一つの手段となりうると考えられていることから、L-フコース経口投与と神経保護作用を有する薬剤(塩酸ミノサイクリン)の併用による相乗効果をIVIS・ミクログリア活性化・行動試験で評価する計画であったが、まず、L-フコースの投与による炎症抑制のメカニズムの解明を優先させたため、今年度は、この段階まで進まなかった。しかし、Fut8ヘテロ欠損マウス脳内ではサイトカイン受容体を構成する gp130 のα1,6フコシル化レベルが低下しているが、L-フコース投与によって回復することを明らかに出来たことで、L-フコースが神経炎症に対する潜在的な予防化合物であることを示唆する結果を得たので、最も大切な点はクリアできたと考えている。今回到達しなかった部分は、大切な部分であるが、応用的な部分でもあるので、次年度に引き続き行う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度到達しなかった、L-フコース経口投与と神経保護作用を有する薬剤の併用による相乗効果の検討に加え、ホモ欠損マウスと異なり、統合失調症様症状が認められないFut8ヘテロ欠損マウスに、拘束ストレス負荷を加えることにより、統合失調症様のエンドフェノタイプが現れることから、ストレス負荷に対するL-フコース投与の効果を検討する。さらに、その分子メカニズムを明らかにするため、AMPA受容体複合体形成とその機能変化などを検討する。これらを明らかにすることで、糖鎖(L-フコース)が神経炎症に対する潜在的な予防化合物であることを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に、マウス個体の反応(L-フコース経口投与と神経保護作用を有する薬剤併用による相乗効果)の検討を行う計画であったが、まず、L-フコースの投与による炎症抑制のメカニズムの解明を優先させたため、使用するマウスが少なかったことに加え、マウスのキャンパス間移動に関わる経費などが予定より減少した。しかし、サイトカイン受容体を構成する gp130 のα1,6フコシル化レベルが脳内炎症の原因であり、L-フコース投与によってFut8を活性化させることで、gp130 のα1,6フコシル化レベル回復することを明らかに出来たので、研究全体の流れとしては順調に進んでいると考えている。今回研究が当初計画から遅れた部分も3年目の当初計画と平行して行う。次年度の計画がタイトになることが考えられるが、修了予定であった博士課程3年生がコロナ禍の影響で来日が遅れたため、次年度も引き続き本研究に参画することに加え、今春から新たに博士課程1年生が本研究に参画することになったので、問題なく遂行出来ると考えている。そのため、537,006円の次年度使用額が生じたが、次年度の交付決定額の使用計画に変更は生じない。
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