研究実績の概要 |
Fut8はN-型糖鎖の根本にあるGlcNAc残基にフコースを転移し、α1,6フコース構造を作る。我々はFut8ホモ欠損マウスの解析から、α1,6フコースが脳の免疫系を担うミクログリアの過活性化の抑制に働くことを明らかにしている。本研究課題では、Fut8欠損マウスだけでなくFut8遺伝子が半分のFut8ヘテロ欠損マウスでも、ミクログリアやアストロサイトが活性化され易くなっていることを明らかにした。そこで、α1,6フコースを増加させることによって脳内炎症が抑制できると考え、先天性糖鎖形成異常症の糖鎖補充療法を参考に、α1,6フコシル化促進による神経炎症抑制とその機序の検討を行ったところ、脳内のα1,6フコシル化が有意に増加した。 次に、代表的な炎症性サイトカインであるIL-6の発現をホタルルシフェラーゼによりモニター出来るFut8ヘテロ欠損マウスを作成し、L-フコースを経口投与したところ、LPSの腹腔内投与によって誘導される脳内の炎症反応を有為に減弱させた。さらに、脳組織をミクログリアのマーカーIba1抗体で染色したところ、サイズ・数ともに有意に低下していて、ミクログリアの活性が抑制されていることがわかった。また、JAK2、Akt、STAT3 などIL-6の下流のシグナル伝達が抑制されていたので、IL-6受容体複合体を構成するgp130のα1,6フコシル化を検討したところ、Fut8ヘテロ欠損マウスでは野生型マウスより減少していた。しかし、L-フコース投与によりgp130のα1,6フコシル化が有意に増加した。 これらの結果は、L-フコースの経口投与によって神経炎症を抑制できる可能性を示している。
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