研究課題/領域番号 |
21K06557
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
磯部 洋輔 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 副チームリーダー (80724335)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 好酸球 / リポキシデーション / 12/15-LOX / ケミカルプロテオミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、好酸球に高発現する多価不飽和脂肪酸(PUFA)代謝酵素12/15-LOXの機能解明を目指している。とくに、本酵素により生成する反応性脂質代謝物(lipid-derived electrophile: LDE)が修飾する細胞内タンパク質に着目し、最先端のケミカルプロテオミクス解析技術によってLDEの標的を明らかにするとともに、その機能の解明を目標としている。 本年度は、これまでに脂肪酸由来のケミカルプローブ等によって検出した好酸球の脂質修飾タンパク質について、LC-MS/MSを用いたプロテオミクス解析による同定を行った。腹腔細胞から10^7オーダーの好酸球が回収できるIL-5トランスジェニック(Tg)マウスから単離した好酸球に対し、12/15-LOXの阻害剤の処理・未処理の条件下で脂肪酸アルキンプローブを処理し、細胞内タンパク質を修飾させた。その後、クリック反応によって修飾タンパク質にビオチンを付加し、ストレプトアビジンビーズへの吸着、on beadsでのトリプシン消化の後プロテオミクス解析を行った。その結果、全部で813種類のタンパク質が同定された中、12/15-LOXの阻害剤によって有意にシグナルが減弱したタンパク質が144種類認められ、これらが好酸球における12/15-LOX由来LDEによる修飾タンパク質と考えられた。 LDEは主にタンパク質のシステイン残基を修飾することが知られている。そこで、システイン反応性のケミカルプローブを用いた濃縮とプロテオミクスと組み合わせることで、好酸球におけるシステイン修飾状態の変動をプロテオームワイドに捉えることも試みた。その結果、脂肪酸アルキンプローブにより見出されたLDEの標的タンパク質における、修飾部位のシステイン残基の候補を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケミカルプローブによる修飾タンパク質の濃縮技術にプロテオミクスの手法を組み合わせ、好酸球におけるLDEによる修飾タンパク質の同定に成功した。さらに、LDEの標的部位となるシステイン残基の修飾状態を包括的に捉えるケミカルプロテオミクスの系を好酸球に対して最適化し、修飾部位となるシステイン残基の候補を得ることができた。このように、研究代表者の強みであるケミカルプロテオミクスの技術を活用することで好酸球の脂質修飾のプロファイリングが達成されており、概ね順調な進展であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
見出されたLDEの標的タンパク質候補について、実際に12/15-LOX由来LDEによって修飾されるか検証を行う。そのために、まず候補タンパク質の遺伝子をクローニングする。この時、修飾部位となるシステインをアラニンに置換した変異体(CA変異体)も作成する。得られた遺伝子を12/15-LOXと共に細胞に発現させ、脂肪酸アルキンプローブを添加し、クリック反応によってアルキンに蛍光分子を付加して検出する。12/15-LOX存在下で候補タンパク質に対してプローブによる修飾シグナルが認められるか、またそれがCA変異体で認められなくなるかを指標に、12/15-LOX代謝物による標的タンパク質の修飾を検証する。 また、LDEによる修飾によって標的タンパク質の機能が制御されるか検証する。加えて、標的タンパク質が関わる好酸球の細胞機能についてもLDEや12/15-LOXの有無による変動を解析し、見出された脂質修飾の好酸球における機能的役割について示唆を得る。 LDEによるシステイン修飾の意義が明らかにされた標的タンパク質については、ケミカルジェネティクスのアプローチによってLDEによる修飾をミミックする化合物の導出も試みる。具体的には、研究代表者が保有する300種以上のシステイン反応性の化合物ライブラリを用い、LDEの標的タンパク質に対するリガンド能を指標にスクリーニングを行うことで、目的の標的タンパク質に対し、LDEによる修飾をミミックする化合物を探索する。得られた化合物の好酸球機能に与える影響を評価することで修飾の意義を解明すると共に、創薬シーズとしての展開を目指す。
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