がんゲノム変異の90%以上は機能未知の低頻度変異が占めている。しかしながら、これらの変異とがんとの関連を明らかにする戦略は確立されておらず、新たな治療標的の探索は進んでいない。そこで本研究では、がんゲノム低頻度変異がタンパク質間相互作用に及ぼす影響を迅速に評価することで、がん生育に有利に働く変異を効率よく同定する戦略の確立を目指す。これまでに、がんゲノムデータベースに登録されたKEAP1遺伝子変異の一部が、膜タンパク質の小胞輸送に係るGTPaseであるRab8aとの相互作用を減弱させることを明らかとした。そこで、がん変異によるKEAP1-Rab8a相互作用の破綻が細胞増殖に及ぼす影響を調べるべく、内在性KEAP1の発現が見られない肺がん細胞株であるA549に対して、野生型KEAP1ならびにRab8aとの相互作用が減弱する変異型KEAP1を安定発現させた。まず、これら細胞株を用い、KEAP1との相互作用がRab8aの分解を促進するかを調べたところ、全ての細胞株でRab8a量に変化はなく、この可能性は否定された。次に、KEAP1-Rab8a相互作用が細胞増殖に与える影響を調べたところ、細胞株間で足場依存性増殖能には差が無かったが、野生型KEAP1発現株はA549および変異型KEAP1発現株と比較して足場非依存性増殖能が減弱することが明らかとなった。さらに、マウスxenograftモデルを作製し、KEAP1-Rab8a相互作用が腫瘍増殖能に与える影響を調べたところ、野生型KEAP1発現株はA549細胞に比べて腫瘍増殖が抑制される傾向にあった。一方で、変異型KEAP1発現細胞株においても腫瘍増殖抑制が見られ、その抑制能は野生型KEAP1発現株と有意な差は無かった。このことから、Rab8aとの相互作用を減弱させる変異はKEAP1の腫瘍増殖抑制能に大きな影響を与えないことが示唆された。
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