研究課題/領域番号 |
21K06564
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
市川 智恵 明治薬科大学, 薬学部, 准教授 (60383288)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Trichosporon / グリコサミノグリカン |
研究実績の概要 |
高度医療の進歩により、免疫力の低下した患者や高齢者が増加しており、予後不良な日和見感染症の対策が望まれている。本研究では、真菌を解析対象とし、ヒトに共生・定着する真菌が、どのようなメカニズムで病原性を示すようになるのか、という点に着目して解析を行っている。日和見感染をおこす真菌の毒性を考える上では、複数の病原因子を見つけることが必要である。そこで本年度は、病原性酵母Trichosporon asahii の新たな病原因子を探索した。 ヒト組織のグリコサミノグリカン(GAG)への結合が、初期感染時の足場形成などに影響を与えていると考え、GAG結合能を調べた。GAG結合セファロースを作製し、GAGに結合する真菌分子を精製・同定した。ヘパリンセファロースビーズで結合分子を精製した結果得られたタンパク質をHepBP1と命名した。また、T. asahiiのデルマタン硫酸結合分子を検出するため、デルマタン硫酸をビオチン化しSAチップに固定化した。T. asahiiの菌体表層高分子を抽出し、ビアコアによる解析で両者の結合性を確認できた。これらGAG結合分子の機能はまだ解析されていないが、他の微生物ではGAG接着を足場とする可能性や分解して栄養源とする可能性も指摘されている。T. asahiiでは低分子のコンドロイチン硫酸を培養プレートにコートした場合に増殖率が高い結果を得ており、GAGを分解して栄養源としている可能性が示唆された。本研究で、複数のグリコサミノグリカン結合分子が検出されたことから、T. asahii が宿主細胞のプロテオグリカンなどと相互作用し、感染に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
T. asahiiの新しい病原因子の一つとして、デルマタン硫酸への結合能を見出した。詳細な解析はこれからであるが、感染初期の、宿主細胞への接着や増殖の段階に寄与している可能性が考えられる。初年度に予定していた、他の病原因子の探索は進度の遅いものもあるが、デルマタン硫酸への結合性は次年度に予定していたビアコアによる結合解析まで進むことができた。また成果も学会で発表できており、全体として概ね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
T. asahiiの病原因子の探索を続けるとともに、これまでに見出した病原因子候補の機能解析を進める。病原因子としては、プロテアーゼや細胞外へ分泌される分子の解析を進める。先行研究として30kDaのプロテアーゼが報告されているものの、分子としては解明されていない。GAG結合タンパク質についても、デルマタン硫酸を持つプロテオグリカンとT. asahiiとの結合性の解析や、コートプレートへの接着性などを解析することで、感染におけるGAG結合の機能を明らかにする。また、T. ashaiiは高頻度なコロニー形態変化をおこすことが特徴であるため、コロニー形態によってこれら病原因子候補の発現量や機能が変わるかを解析する。また、リストアップした病原因子についてリコンビナントタンパク質を作製し、他の因子との結合性や機能を解析する。他の病原真菌であるCandida属菌種などと比較し、他の真菌にも共通の因子か、種特異的な因子なのかを解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
グリコサミノグリカンと結合するT. asahii分子の探索が順調に進んだため、ある程度行う実験を絞り込めた。その結果、スクリーニングに必要と考えていた試薬類の使用が減少したため、次年度使用額が生じた。次年度には別の病原因子の探索を進める予定であり、繰越額はその費用として使用する。また、研究機関を異動したため、初期立ち上げの試薬類の購入に充て、研究計画が滞らないよう進める。
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