研究課題/領域番号 |
21K06565
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
柳澤 聖 名城大学, 薬学部, 教授 (20372112)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 悪性胸膜中皮腫 / プロテオミクス / 分子標的治療 |
研究実績の概要 |
本研究では、悪性胸膜中皮腫の増殖促進因子として重要な機能を担う2分子を対象として詳細な機能解析を進める事により、新たな治療標的候補としての有用性の検証を目的としている。 2021年度までに、小胞体膜上に存在しその形態維持に関わるCKAP4タンパク質が、細胞質に存在し、細胞内に生じたストレスの低減を促す機能を有するeIF2タンパク質の活性制御における重要な役割を担うとともに、増殖シグナル伝達に深く関与する分子群の活性制御に関わっていることを見出していた。2022年度は、CKAP4タンパク質が制御するシグナル伝達経路とは異なる経路を標的とした阻害剤と、RNA干渉法によるCKAP4経路の阻害との相乗効果に関する検討を行い、悪性胸膜中皮腫細胞において、顕著な増殖抑制効果やアポトーシス誘導効果が得られることを確認した。さらに、CKAP4タンパク質が促進するシグナル伝達経路を抑制する分子を阻害する低分子化合物との相乗効果に関しても検討を進めたところ、悪性胸膜中皮腫細胞の増殖能抑制効果が顕著に増強することが確認された。 また、分泌因子であるOSF2タンパク質を対象とする解析では、2021年度までに、その発現抑制により悪性胸膜中皮腫細胞株の顕著な増殖抑制が認められるとともに、数十種類のリン酸化アミノ酸の量的変動を確認していた。さらには、OSF2の受容体と協調的に機能することが示唆される候補分子を同定していた。2022年度は、シグナル伝達分子から推定された候補受容体について、OSF2が伝達するシグナル経路における役割を検討する目的で、各阻害剤を用いて増殖・抗アポトーシス活性の変化を検証した。その結果から、OSF2のシグナル経路において、細胞増殖や抗アポトーシス機能を促進的に維持している候補受容体を同定するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究内容の一つである悪性胸膜中皮腫におけるCKAP4タンパク質の分子機能解析については、当初計画では、量的あるいは質的(リン酸化状態など)の変動を認める共作用分子群の同定を目標としている。本年度までの成果として、報告されているCKPA4タンパク質の細胞内局在とは異なり細胞質に局在を示す酵素がCKAP4タンパク質を標的とする悪性胸膜中皮腫治療において重要な役割を担っていること、さらには、CKAP4タンパク質を標的とする治療に対して相乗的な抗腫瘍効果が期待されるシグナル伝達経路候補を見出していることが挙げられる。以上の様に、将来的に悪性胸膜中皮腫を対象とする治療法開発の標的となり得るシグナル伝達機構の一端を同定することができており、当該研究がおおむね順調に進展している状況と考える。 もう一つの研究主題である悪性胸膜中皮腫におけるOSF2タンパク質の分子機能解析については、当初計画では、OSF2タンパク質が担うシグナル伝達経路の下流分子の探索を進める事を目標としている。本年度までの成果として、増殖因子受容体の下流で機能するアダプタータンパク質群のリン酸化状態の変動を確認するとともに、その上流で機能する可能性が示唆される膜受容体の存在を確認している。然しながら、OSF2の下流で機能するシグナル伝達経路に対する包括的な検証を実施できておらず、この点は本研究の課題と考えます。
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今後の研究の推進方策 |
CKAP4タンパク質は、分子標的治療開発が立ち遅れている悪性胸膜中皮腫細胞の増殖能の維持に深く関与しており、その下流のシグナル伝達経路には、様々なリン酸化タンパク質の存在が明らかとなってきている。これらのシグナル伝達経路の構成タンパク質は、分子標的治療開発へと発展する可能性を有する重要な候補分子群である。これらの作用機序の詳細解明を目指して、CKAP4タンパク質と共作用するキナーゼやホスファターゼなどの酵素群、或いはシグナル伝達アダプタータンパク質などとの相互作用の検証を継続的に進めていく。これにより、悪性胸膜中皮腫細胞の特性維持に重要な機能を有する治療標的候補が明確なものとなり、将来的な化合物のスクリーニングを可能とする評価系の基盤構築に繋がっていくものと期待される。未知のCKAP4タンパク質機能を同定するため、当該分子の発現抑制・増強、或いは欠失変異体を導入した培養細胞株の樹立とその活用により、質量分析技術とリン酸化タンパク精製技術を応用したプロテオーム解析を進め、分子ネットワークの包括的な同定を目指し、CKAP4タンパク質が制御する細胞増殖、ストレス応答制御、抗アポトーシス機構などを治療薬開発の基盤となる標的分子の可及的同定を継続的に進める計画である。 また、CKAP4タンパク質と同様に、悪性胸膜中皮腫細胞の増殖に深く関与し、リン酸化を介したシグナル伝達経路の構成分子であることが明らかとなったOSF2タンパク質についても、分子標的治療開発が立ち遅れている当該疾患の標的分子候補と期待される。悪性中皮腫細胞特性維持を担うことが期待されるOSF2の新たな受容体候補を同定するなど、これまでの成果に基づいて、OSF2タンパク質が制御する細胞増殖、ストレス応答制御機構の中で治療標的に適したシグナル伝達機構の解明をさらに進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた研究項目の中で、進捗を認める項目が複数あったことから、実験動物を用いた解析などの開始に遅延が生じております。このため、これらの解析で予定していた経費を、2022年度に執行する計画としたため、次年度使用助成金が生じる事となっております。 次年度は、CKAP4タンパク質の下流シグナル伝達を担う標的候補分子群の質的変動の確認を前期に進めるため、抗体や発現分析用試薬の購入を予定し、候補の絞り込みを行った上で、後期に分子機能の詳細解析を進めるため、細胞培養に関する試薬類を購入する計画とします。また、OSF2タンパク質に関しても、シグナル伝達経路の詳細解明を進めるための分析試薬類を、後期には機能解析を進めための細胞培養に関する試薬類を購入する計画とします。
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