研究課題/領域番号 |
21K06567
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
中瀬 朋夏 (高谷朋夏) 武庫川女子大学, 薬学部, 教授 (40434807)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 亜鉛 / 亜鉛トランスポーター / 乳がん / タモキシフェン / オートファジー |
研究実績の概要 |
乳がんの約70%は女性ホルモン受容体が陽性であるため、主に抗エストロゲン剤タモキシフェンをはじめとするホルモン療法が選択される。しかし、タモキシフェンの長期使用は、副作用の発現や効果の減弱・薬剤耐性を引き起こす症例が少なからず報告されている。さらに、ホルモン療法が奏功しない症例が約20%もあり、その予後は極めて悪い。これは、現在確立されている治療法に限界があることを意味するが、薬剤感受性の制御機構や予後を決める因子は未だ解明されていない。これまで、我々は、乳がんの細胞機能の制御や悪性化のプロセスには、亜鉛イオン(Zn2+)とその輸送を担う亜鉛トランスポーターが密接に関連し、乳がんにおけるZn2+の役割解明は、乳がんの治療戦略を考える上での新たなアプローチとして有望であることを示してきた。本研究では、乳がんで重要な役割を果たしている亜鉛を利用した有効かつ安全な革新的乳がん治療法の開発を目指し、エストロゲン受容体陽性ヒト乳がん細胞MCF-7を用いて、亜鉛がタモキシフェンの抗がん活性を操ることができるか否か、検討した。その結果、Zn2+とタモキシフェンを併用処置すると、タモキシフェン単独に比べて、抗がん活性は著しく増大した。さらに、細胞透過性Zn2+イオノフォアZinc pyrithioneを処置して、細胞内Zn2+濃度を強制的に増大させると、タモキシフェンの活性は増大し、その活性増大は細胞透過性Zn2+特異的キレート剤N,N,N’,N’-tetrakis (2-pyridylmethyl) ethylenediamine (TPEN)の処置により消失した。Zn2+併用タモキシフェンの活性増大にはまた、オートファジー誘導分子Beclin1のシステムを介したオートファジーの誘導が関与し、タモキシフェンとZn2+併用によりオートファジーの強い亢進が観察された。以上より、Zn2+の併用によりタモキシフェンの抗がん効果を増強できることを初めて示し、亜鉛は新たな乳がん薬物治療戦略の強力なツールとして期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ホルモン療法で使用されるタモキシフェンの抗がん活性を、亜鉛で制御することに成功した。亜鉛を用いた簡便な方法で乳がんの薬物治療の効果に迫った研究はこれまでになく、乳がん治療の実現化に向けて有益な知見である。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、試薬の調達が間に合わず、一部の動物実験に関しては遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
乳がん細胞内外の亜鉛ネットワークが、タモキシフェンの抗がん活性の制御を、どこで、どのように統御するのか明らかにするため、細胞モデルおよびin vivo担がんモデルを作製し、他の亜鉛トランスポーターとの繋がり、とりわけ乳がんの悪性化に重要なZIP6との関係ならびに亜鉛シグナルの発信意義について解析する。細胞モデルとしては、亜鉛トランスポーターを可逆的かつ特異的に発現制御できる細胞を、遺伝子工学的技術を駆使して構築し、亜鉛の細胞内動態と亜鉛標的分子を捉えながら、タモキシフェンの抗がん活性と亜鉛シグナルの関係を解析する。さらに、そのときの細胞内亜鉛ネットワークをライブイメージング技術により時空間的に解析する。同定できた分子について、in vivo担がんモデルにおいても、タモキシフェンの効果とともに、追跡し、検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度、ホルモン療法における亜鉛シグナルの重要性について、国内外の学会で発表する予定であった。しかし、所属大学および文部科学省が定める動物実験ガイドラインに従って、動物実験を進めていたところ、データの取得が不可能な事態が生じ、計画の変更と追加実験が必要となった。さらに、新型コロナウイルス感染拡大防止の影響を受け、計画していた学会発表の一部を行うことができなかった。追加実験とその研究成果の発表に関しては、次年度に実施し、未使用額はその経費に充てる。
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