溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)は溶連菌感染後に発症する腎疾患である。多くの症例では自然に回復するが、一部の患者では症状が急速に悪化し慢性腎不全へと進行することがある。このような増悪の機序は完全には解明されておらず、その解明が治療戦略の確立につながると期待される。本研究では溶連菌が産生する細胞外毒素の一つであるStreptolysin O(SLO)に注目した。SLOは細胞膜に孔を形成し、その結果引き起こされる細胞障害は炎症反応を誘発し、組織損傷や疾患の増悪に寄与する可能性がある。 SLOを慢性投与したラットの糸球体ではPSAGN様の病変は確認されず、SLO単独ではPSAGNが誘発されなかった。単離したラットの腎輸入・輸出細動脈に対してAngiotensin II (AngII)誘発性収縮に対するSLOの作用を検討したところ、輸入細動脈において若干の収縮抑制が見られた。一方、輸出細動脈においてはSLOによる影響は観察されなかった。これは輸入細動脈と輸出細動脈それぞれでSLOの作用が異なることを示しており、作用メカニズムの解明の手掛かりになると期待される。アセチルコリン誘発性弛緩に対するSLOの作用を検討したところ、輸入細動脈において予想に反して弛緩を増強する傾向が見られた。これはAngIIに対する収縮抑制の結果と一致しており、SLOが他の血管に対する作用とは異なる作用機序を持っている可能性を示唆している。摘出腎の灌流実験ではSLOはAngIIによる血管収縮に伴う灌流量を有意に低下させなかった。一方、AngII収縮後にアセチルコリンで弛緩させたところ、初期相ではSLO非存在下と同程度の弛緩が見られたのに対し、その後弛緩が減弱していった。 以上の結果より、SLOが腎微小循環系に影響を与えることが明らかとなったが、PSAGN増悪に関与する可能性を示すことはできなかった。
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