メチル水銀(MeHg)による神経系への毒性機序の探究において生体のレドックス(酸化還元)変動は不可欠の概念である。MeHgは親電子性を有することから、MeHg毒性の一端は細胞中タンパク質の求核性チオール基への付加修飾と考えられている。一方で近年、タンパク質のチオール基はサルフェン硫黄により超硫黄化され、タンパク質機能を制御することが明らかになってきた。しかしながら、MeHg曝露に際してタンパク質の超硫黄化がどのように変動するのか明らかでない。そこで神経細胞におけるメチル水銀曝露依存的なタンパク質の超硫黄化変動を解析した。 MeHg曝露または未曝露のラット大脳皮質初代培養神経細胞より、ビオチン標識アルキル化剤を用いたプルダウンアッセイ系にて超硫黄化タンパク質を特異的に単離し、DIAプロテオミクスによる同定と半定量解析を行った。その結果、MeHg曝露依存的に超硫黄化が減少する種々の候補タンパク質が見出された。このものの一部につき生化学的解析も行ったところ、超硫黄化が既に報告されているプロテアーゼのほか、セリンスレオニンキナーゼなど新奇分子にて超硫黄化とMeHgによる超硫黄化減少が確認された。これらの結果は、MeHgにより特異的なタンパク質が脱超硫黄化することを示唆しており、当該タンパク質の機能変化とMeHg毒性の関連についてさらなる解析が必要である。
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