研究課題
社会や環境から受けるストレスは情動変容や認知機能の低下を誘導し、精神疾患の危険因子である。これに合致し、社会ストレスを繰り返し与えられた動物でも行動変化や認知機能の低下が観察される。そのため、このような動物を解析することにより、慢性ストレスがどのように脳機能を変化させるかを明らかにし、治療薬の開発に繋げることを目指す。また、慢性ストレスは循環器疾患や糖尿病などの危険因子でもあり、脳以外の組織も解析することで各種疾患の病態解明に繋がることが期待される。ストレスを繰り返し与えた動物の血液を調べ、ストレスが貧血を誘導することがわかった。貧血の原因はいくつか存在するため、ストレスが貧血を誘導する原因を精査したところ、鉄欠乏に起因することが明らかとなった。感染などにより炎症が生じると鉄欠乏性貧血となることが知られている。この現象は炎症性貧血と呼ばれ、炎症により産生されたインターロイキン-6(IL-6)が肝臓に作用すると、肝臓でヘプシジンが作られ、肝臓から血液への鉄の移動が妨げられる結果、鉄欠乏性貧血となる。そこで、肝臓のヘプシジンや鉄の量を調べた。急性のストレスは一過性に肝臓でのヘプシジンの発現を増加させたが、慢性ストレスによりへプシジンの発現量はむしろ減少した。また、肝臓の貯蔵鉄は変化しなかった。以上の結果から、ストレスによる鉄欠乏性貧血の初期段階でのIL-6の関与が示唆された。この仮説に合致して、IL-6欠損マウスで慢性ストレスによる鉄欠乏性貧血は誘導されなかった。これらの結果は、ストレスによる鉄欠乏性貧血の誘導には未知の機構が関与することを示唆する。血清鉄の減少により赤芽球でのトランスフェリン受容体の発現代償的に増加する。そこで、赤芽球のトランスフェリン受容体の発現量とストレスによる行動変容の相関解析を行ったところ、血清鉄と不安の間に強い負の相関があることが示唆された。
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