研究課題/領域番号 |
21K06587
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研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
大野 行弘 大阪医科薬科大学, 薬学部, 教授 (00432534)
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研究分担者 |
清水 佐紀 大阪医科薬科大学, 薬学部, 准教授 (00630815)
國澤 直史 大阪医科薬科大学, 薬学部, 助教 (10858096)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アストロサイト / 空間的カリウム緩衝機構 / 内向き整流性Kir4.1チャネル / 精神疾患 / 神経疾患 / うつ病 / てんかん |
研究実績の概要 |
アストロサイトの空間的カリウム緩衝機能は、神経興奮に伴い増加する細胞外K+のクリアランス機構であり、多くの中枢神経系疾患の発症に重要な役割を果たすことが示唆されている。本研究では、空間的カリウム緩衝機能を仲介する内向き整流性Kir4.1チャネルに着目し、精神神経系疾患の発症および治療におけるグリア細胞の機能メカニズムを明らかにする。本年度は以下の検討を行い、アストロサイトKir4.1チャネルの機能抑制がてんかんの発症ならびにうつ病改善に関与することを明らかにした。 ①アストロサイト不活性化剤を用いた評価研究:アストロサイトの選択的不活性化剤フルオロクエン酸(FC)を投与した際の Kir4.1発現変化を評価するとともに、アストロサイトの不活性化がペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発けいれんに与える影響を評価した。FCの脳室内投与によって、嗅周-嗅内皮質、梨状葉皮質(PirC)、扁桃体外側基底核(BLP)、海馬 CA2、海馬歯状回(DG)におけるGFAP陽性アストロサイト数は有意に低下し、さらに PirC、CA2、DGではKir4.1チャネルの発現も減少した。また、FC投与群においてはPTZ誘発けいれんの発現感受性が亢進していた。神経興奮マーカーであるFosタンパク発現を免疫組織化学的に解析した結果、FC投与群ではBLP、扁桃体内側基底核、DGにおけるFos発現が有意に増加していた。 ②うつ病モデルを用いた評価研究:Kir4.1チャネル阻害薬であるquinacrine およびpentamidine のうつ病モデルにおける作用を評価した。その結果、両薬物は強制水泳試験における無動時間を有意に短縮し、抗うつ効果を示した。さらに、quinacrineはlipopolysaccharideを投与したマウスにおける強制水泳時間の延長(うつ症状)を有意に改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・フルオロクエン酸(FC)の脳室内投与によるアストロサイト不活性化動物モデルの作出に成功し、GFAP陽性アストロサイト数およびKir4.1陽性アストロサイト数の変化を定量的に解析できた。これにより、種々の病態モデルや薬物作用発現におけるアストロサイトの役割を探索することが可能となる。 ・上記のFC誘発アストロサイト不活性化モデルにおいて、けいれん発作の発現感受性が亢進することを明らかにできた。これは、アストロサイトKir4.1チャネルの機能低下がてんかんの発症に関与することを示唆する。 ・これまでに、Kir4.1チャネル阻害薬の薬理作用評価はなされていなかった。本研究により、複数の動物モデルにおいてKir4.1チャネル阻害薬が抗うつ効果を示すことを初めて明らかにすることが出来た。 ・脳内神経活動の変化および脳内Kir4.1の発現変化についても、免疫組織化学的手法を用いて定量解析することが出来た。 ・アストロサイト初代培養系を用いたin vitro評価系を用いた研究について準備が整い、順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
・フルオロクエン酸の脳内投与によるアストロサイト不活性化モデルにおける行動変化をより詳細に解析し、てんかん発作の発症や各種中枢神経薬の作用発現に関わるアストロサイトの機能を解析していく。 ・Kir4.1チャネル阻害薬の抗うつ効果に関する作用メカニズム(作用部位、神経興奮性の変化など)を詳細に解析する。 ・さらに、アストロサイト初代培養系を用いたin vitro評価研究により、Kir4.1チャネルの発現調節に関わる生体内因子(生理活性物質、 神経伝達物質、受容体-シグナル伝達系、エピジェネティック制御系)を探索し、新たな治療法及び創薬コンセプトの開発に繋げる。
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