【目的】本研究では、音刺激に対する内耳蝸牛内でのオートファジーによる細胞保護機構を明らかにするために音響性難聴誘発モデルマウスを用いて、音響曝露したマウスの聴力に対するオートファジー阻害薬であるクロロキン(CQ)あるいはオートファジー活性化薬であるラパマイシン(Rap)の影響について解析した。 【方法】5週齢Std-ddY 系雄性マウスに90 dBあるいは110 dBの音刺激を1時間曝露後に聴性脳幹反応(ABR)を指標に聴力を測定した。CQあるいはRapは音刺激前にマウス蝸牛内に浸透させた。また、音響曝露したマウス蝸牛からタンパク質抽出液の調整および切片を作成してLC3(オートファジーマーカー)、SLC26A4(外らせん溝細胞マーカー)および4-hydroxynoneal(4HNE、酸化ストレスマーカー)に対する抗体を用いて免疫組織化学法とウエスタンブロッティング(WB)法により解析した。 【結果】マウスの聴力に対する薬物処置の影響をABRにより解析したところ、90 dB音響曝露では、対照群で聴力に変化はみられなかったが、CQ処置は90 dB音響曝露後の聴力を有意に悪化させた。一方、110 dBの音響曝露はマウスの聴力を著明に悪化させるが、Rap処置は、この聴力悪化を有意に抑制した。また免疫組織化学法の結果、110 dB音響曝露後の蝸牛らせん靱帯の外らせん溝細胞では、LC3とSLC26A4両抗体陽性細胞が認められ、その発現は完全に一致した。さらにWB法の結果、Rap処置はらせん靱帯における110 dB音響曝露由来の4HNE付加タンパク質の発現増加を有意に抑制した。 【考察】以上の結果から、蝸牛らせん靱帯の外らせん溝細胞にはオートファジーによる細胞保護機構が存在し、そのメカニズムの一部に外部からの音刺激による酸化ストレスに対して聴覚機能を維持する重要な役割をもつ可能性が示唆される。
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