これまでに、我々は、がん治療後に持続する情動障害のモデル動物である腫瘍切除マウスにおいて、長期的に持続するうつ様行動に海馬ミクログリアの機能変化が関与する可能性を示してきた。令和5年度は、腫瘍切除マウスで認められる神経細胞のシナプス構造の変化に対してミクログリアの機能異常が関与するかどうかを明らかにすることを目的として、以下の成果を得た。 2年目で見出した、腫瘍切除マウスの海馬で認められる神経細胞のポストシナプス数の変化、およびミクログリアと相互作用するポストシナプス数の変化が、ミクログリアの機能調節薬であるミノサイクリンで改善されるかどうかを検討した。ゴルジ染色の結果、腫瘍切除マウスの海馬神経細胞の樹状突起スパインの数がミノサイクリンより増加することを明らかにした。また、免疫染色の結果、腫瘍切除マウスにおいて、ミクログリアマーカーであるIba1陽性細胞上のポストシナプスマーカーであるPSD-95の陽性粒子数がミノサイクリンにより増加することを明らかにした。以上の結果は、腫瘍切除マウスの海馬ミクログリアの機能変化は、神経細胞のシナプス構造に影響を与える可能性を示唆している。 これまでに、ミノサイクリンが腫瘍切除マウスの社会性の低下を改善するという結果と合わせて考えると、腫瘍切除マウスの海馬ミクログリアが神経機能の変化を介して、情動機能障害を発現することにつながる可能性が考えられる。
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