研究課題/領域番号 |
21K06593
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
林 周作 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (10548217)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 粘膜治癒 / 腸管上皮細胞 / オルガノイド / 動的ネットワークバイオマーカー / ゆらぎ / 未病 |
研究実績の概要 |
本研究では、炎症性腸疾患(IBD)の治療において、速やかに炎症を収束させ、炎症によって傷害された腸管粘膜の修復を積極的に促し、腸管粘膜バリアを出来るだけ早くかつ正確に再構築することにより、再燃を繰り返す悪循環を断ち切り、長期寛解維持を目指すという有用な治療コンセプトの実証を目的に以下を実施した。 これまでに行った探索研究から見出した候補薬物であるベルベリンの再燃抑制効果を検証するためにIBD再燃マウスモデルを作製し、ベルベリンが本モデルでの再燃を抑制すること、そのメカニズムにはベルベリンによる傷害粘膜の修復促進の関与が示唆された。さらに、腸管粘膜修復での腸管上皮細胞の病態生理学的役割を研究するために、非常に有用な技術である腸管オルガノイドを用いた実験手法をミシガン大学Asma Nusrat教授との国際共同研究によって取得し、腸管オルガノイド培養を行うための研究環境を立ち上げた。 また、再燃の予測・予防を目標として、動的ネットワークバイオマーカー(DNB)解析を用いたIBD病態モデルでの未病(疾病前状態)の検出ならびにDNB遺伝子の病態生理学的意義を解明する研究を開始した。すなわち、「人間の心身の状態は健康と病気の間を“ゆらぎ”ながら連続的に変化するため、DNB解析によりその数値が大きく分散している状態、いわゆる“ゆらぎ”を捉え、“ゆらぎ”が最大化するポイントが疾病前状態、すなわち未病状態である」という仮説を病態モデルを用いて検証する研究である。そこで、IBDモデルにおいてDNB解析を実施し、発症前に遺伝子発現が大きくゆらぐ遷移点を見出し、27のDNB遺伝子を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い、炎症性腸疾患(IBD)再燃モデルを作製し、ベルベリンが本モデルに対して有効であることを示すことが出来た。さらに、ベルベリンがマクロファージにてFatty acid synthaseと直接結合することを見出し、ベルベリンが腸管マクロファージのIL-10産生を亢進させるメカニズムの解明に関しても順調に進展している。 また、動的ネットワークバイオマーカー(DNB)理論に基づいたIBDでの再燃予防を目指す研究を開始し、IBDモデルでの疾病前状態を検出し、27のDNB遺伝子を同定することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
腸管マクロファージのIL-10産生におけるFatty acid synthaseの役割を解析し、ベルベリンが腸管マクロファージのIL-10産生を亢進させるメカニズムを明らかにする。さらに、ミシガン大学Nusratラボとの国際共同研究によって、マウス腸管粘膜修復モデルでのベルベリンの効果を評価する。 また、IBD病態におけるDNB遺伝子の病態生理学的意義を明らかにする研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の前半は研究代表者が、アメリカ合衆国に滞在し国際共同研究を実施していたため、次年度使用額が生じた。IBD病態におけるDNB遺伝子の病態生理学的意義の解明に高額な試薬が必要なため、物品費として使用する予定である。
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