研究課題/領域番号 |
21K06593
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
林 周作 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (10548217)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 動的ネットワークバイオマーカー / ゆらぎ / 遷移点 / IBD / 大腸上皮細胞 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究において、動的ネットワークバイマーカー(DNB)解析を用い、炎症性腸疾患(IBD)モデルにおける未病(遷移点)の検出を試みた結果、発症前に遺伝子発現が同期して大きくゆらぐ遷移点を見出し、27のDNB遺伝子を同定した。今年度は、同定したDNB遺伝子の病態生理学的意義を解明することを目的に以下のことを実施した。 東京工業大学の井村教授の研究グループと共同研究を行い、制御理論を用いて27のDNB遺伝子をランク付けした。 GEOデータベースで公開されているヒトIBD患者の大腸粘膜での遺伝子発現を網羅的に解析したデータを用いて、ヒトIBD患者におけるDNB遺伝子の発現プロファイルを解析した。 その結果、正常粘膜と比較し、ヒトIBD患者の大腸粘膜において発現変動が認められるDNB遺伝子の中で、遺伝子Xがランキングのトップとなったため、遺伝子XのIBDでの病態生理学的役割について明らかにすることを試みた。 大腸粘膜での遺伝子Xの局在を解析するため、高感度にmRNAを可視化する手法であるRNAscopeを行い、正常マウスの大腸粘膜では、免疫細胞に比べ大腸上皮細胞に遺伝子X mRNAが高発現していることが観察された。次に、IBD病態モデルであるDSS誘起大腸炎モデルマウスに対する遺伝子Xのリコンビナントタンパク質Xと抗タンパク質X抗体の効果を評価した。その結果、リコンビナントタンパク質Xの投与は大腸炎の発症を抑制し、抗タンパク質X抗体の投与は大腸炎の病態を悪化させた。以上のことから、実際にDNB遺伝子である遺伝子XはIBD病態において病態生理学的に意義のある遺伝子であり、遺伝子X/タンパク質Xが保護的に働くことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNB遺伝子である遺伝子X/タンパク質Xの炎症性腸疾患(IBD)での病態生理学的役割の解明研究に着手し、リコンビナントタンパク質Xの投与がIBD病態モデルマウスにおける大腸炎の発症を抑制し、抗タンパク質X抗体の投与が大腸炎病態を悪化させる知見を得たため。 また、ヒトIBD患者の大腸粘膜において遺伝子X mRNAの発現が正常粘膜と比べ上昇していることを見出し、遺伝子XがヒトIBD病態にて何らかの役割を担うことを強く示唆するデータを取得したため。 さらに、東京工業大学の井村順一教授の研究グループとの共同研究を開始し、制御理解を応用して27のDNB遺伝子のネットワーク構造およびDNB介入理論の構築を目指す研究が進行中である。
|
今後の研究の推進方策 |
大腸上皮細胞に発現する遺伝子X/タンパク質Xが、抗炎症作用を有するかまたは大腸粘膜バリア機能の維持に寄与するかを明らかにする研究を進める。また、ミシガン大学Nusratラボとの国際共同研究を行い、ヒトIBD患者の大腸上皮細胞を用いた解析も行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度中に使用しなければならない予算を優先的に使用していたため、次年度使用額が生じた。IBD病態でのDNB遺伝子の病態生理学的意義の解明に高額な試薬が必要なため、主に物品費として使用する予定である。
|