研究課題
ニーマン・ピック病C型(Niemann-Pick disease type C, NPC)は、コレステロールを中心とする脂質類の細胞内輸送・転送系の障害を呈するライソゾーム病であり稀少難病に指定されている。申請者らは、生体適合性の高いコレステロール輸送担体2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(2-hydroxypropyl-β-cyclodextrin, HPBCD)の脳室内投与療法を世界に先行して施行し、優れた神経障害改善効果を確認し2014年に国際誌にて発表している。2016年から世界規模でPhaseⅡb/ Ⅲの臨床試験が実施されたが、HPBCDによる聴覚障害が問題視され、現時点で医薬品としての承認に至っていない。本研究では、聴覚毒性フリーなNPC治療薬シクロデキストリン誘導体の開発を推進するために、①HPBCDの聴覚毒性発現機構の解明と予防・治療法の開発、および、②HPBCDより安全性に優れる次世代治療薬の開発を目指した基礎的検討を行うことを目的としている。①HPBCDの聴覚毒性機序および至適投与量を調べる目的で①-1) マウス蝸牛外有毛細胞モデルHEI-OC1細胞を用いてHPBCDの細胞障害を調べたところ、HEI-OC1細胞を外有毛細胞様に分化させた状態で細胞障害性が高いことが明らかになった。また、①-2)この細胞障害にコレステロール引き抜きが関与することを明らかにした。さらに①-3) NPCモデルマウスを用いたHPBCDの至適投与条件を見出すため、HPBCD脳室内投与時の聴覚障害誘発の投与量依存性を調べ、その閾値を見出すことができた。更にこの閾値においても病態改善効果を示すことが示された。さらに、②HPBCDにかわる有効かつ安全性に優れる新規治療薬候補の開発を目的に、in vitro細胞モデルにて細胞障害性が低く有効性が高いシクロデキストリン誘導体を見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
①について、当初の想定よりも順調に研究が進行し、HPBCDの聴覚障害メカニズムの一端を解明することができ、また、HPBCDが聴覚障害を惹起することなく治療効果を発揮できる投与量を見出すことができ、学会発表を行った。さらに、国際誌への投稿準備を進めている。また、②安全性の高い新規治療薬についても候補分子を見出し、企業との共同研究に発展しており、共同での特許出願を計画している。以上のことから、当初の計画以上に進展していると評価する。
①HPBCDの聴覚毒性機序および至適投与量の探索研究については、ほぼ予定を完了したため、論文化に向けた補足データの収集を行う。②安全性の高い新規治療薬候補については、動物モデルを用いた聴覚障害性の評価を実施する。
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