研究課題/領域番号 |
21K06598
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
小椋 正人 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (10548978)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 活性酸素種 / ミトコンドリア / プロテオーム / アポトーシス / シグナル伝達 / アストロサイト / 神経変性疾患 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
代謝に伴うROS発生については、神経変性疾患をはじめとする種々の加齢性疾患の発症要因の一つとされている。申請者はこれまでミトコンドリアc-Srcによる呼吸鎖複合体IIのsuccinate dehydrogenase A (SDHA)サブユニットの215番目のチロシンリン酸化がROS産生の抑制に必須の役割を持つことを見出してきた。さらに、アストロサイト群特異的に代謝性ROSの増加を示すSDHAY215Fリン酸化部位変異体発現トランスジェニック(Tg)マウスを作出し、運動協調性の低下、黒質におけるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、A1アストロサイトマーカーC3および神経毒性因子Tinagl1分子陽性細胞数の増加とチロシン水酸化酵素(TH)陽性神経細胞の減少を引き起こすことを見出した。本研究では、代謝性ROSに起因する反応性アストロサイトによるドパミン神経損傷メカニズムの解明を目的として、アストロサイト由来分泌因子Tinagl1の発現調節メカニズムの解析を行った。マウスTinagl1プロモーターをクローニングした後、ルシフェラーゼ発現ベクターに組込んだ。プロモーター領域の生物データベース解析から複数の転写因子が発現調節に関わることが示唆された。プロモーター領域のデリーション変異体および部分配列変異体を作製し、レポーターアッセイを行ったところ、p53結合領域がTinagl1発現調節に重要な役割を果たしていることが判明した。p53をターゲットとするsiRNAを用いた発現抑制実験を行い、p53がTinagl1発現に関わることを確認した。さらに、In vitroキナーゼアッセイおよびウエスタンブロットを行い、PAK2がp53のリン酸化および安定化に関わることを見出した。これらの解析から反応性アストロサイトにおいてp53を介するPAK2の新規シグナル経路の存在が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CAT-SDHAY215F発現Tgマウスとアルデヒド脱水素酵素1L1(Aldh1l1)プロモーターを持つCre発現マウスを交配させアストロサイト群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスを作出した。研究実施計画に従い、研究目的であるアストロサイト群特異的SDHAY215F変異体発現Tgマウスの解析により同定した神経毒性因子Tinagl1の発現調節メカニズムの解析を行った。マウスTinagl1遺伝子プロモーター領域をクローニングし、ルシフェラーゼ発現ベクターに組込み、レポーターアッセイシステムを構築した。生物データベースを用いてプロモーター領域の結合タンパク質を探索し、複数の重要な転写因子を同定した。デリーション変異体および部分配列変異体の解析から、その中の主要な候補として、p53タンパク質を選択した。p53をターゲットとするsiRNAによるRNA干渉実験および特異的抗体を用いた阻害解析から、Tinagl1発現調節に関わることが示唆された。さらに、p53リコンビナントタンパク質を大腸菌を用いて精製した。In vitroキナーゼアッセイおよびウエスタンブロットを行い、PAK2がp53のリン酸化および安定化に関わることを見出した。これらの解析から反応性アストロサイトにおいてp53を介するPAK2の新規シグナル経路の存在が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
反応性アストロサイトに起因するドパミン神経細胞死メカニズムを明らかにする目的で、In vivo実験を中心に、ウイルス接種および行動解析を遂行する予定である。同定した神経細胞死を制御する新規アストロサイト分泌因子Tinagl1のin vivoにおける機能解析を行う。レンチウイルスおよびsiRNAシステムを使ってPAK2分子機能をin vivoで検証する。さらに、PAK2特異的阻害薬である粘菌由来新規低分子化合物プレニルオキシキノリンカルボン酸誘導体18(PQA18)を用いたパーキンソン様症状改善機構の解明を行う。これらの研究から、ミトコンドリア活性酸素種により開始されるPAK2シグナル系の解明を通して、アストロサイト反応性と神経細胞死の分子メカニズムの全貌に迫り、神経変性疾患をはじめとする加齢性病態とミトコンドリア活性酸素種との関連性を考察する。さらに、PQA18のTgマウスにおける症状回復効果と毒性の有無を精密に解析し、グリア細胞をターゲットとする新規神経変性疾患治療薬の創製を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究費は、当初の計画通りに、細胞培養培地類およびプラスチック器具(主にシャーレ)および動物の購入に使用する。これは、研究計画において同定した神経細胞死を制御する新規アストロサイト分泌因子Tinagl1および反応制御分子PAK2のin vivoにおける機能解析を行っていくためである。特にレンチウイルスの作製に関して高力価で純度の高いものを得るには、多大な細胞数から精製していく必要がある。さらに、遺伝子導入試薬の使用量も通常の実験よりも増加するため購入額が高めになる。そのほかに、疾患候補分子の抗体、シグナル伝達に関わる市販抗体および免疫沈降用ビーズ、siRNA作製の費用に、相当額の消耗品費を充当する必要性がある。また、本研究課題において得られた知見の迅速な公表を目的に、国内学会にて2回、および国際学会にて1回発表する予定である。そのため、研究費を国内および外国旅費に使用する。
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