申請者はこれまでミトコンドリアc-Srcによる呼吸鎖複合体IIのsuccinate dehydrogenase A (SDHA)サブユニットの215番目のチロシンリン酸化がROS産生の抑制に必須の役割を持つことを見出してきた。さらに、アストロサイト群特異的に代謝性ROSの増加を示すSDHAY215Fリン酸化部位変異体発現トランスジェニック(Tg)マウスを作出し、運動協調性の低下、黒質におけるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)およびA1アストロサイトマーカーC3および神経毒性作用を見出したTinagl1分子陽性細胞数の増加とチロシン水酸化酵素(TH)陽性神経細胞の減少を引き起こすこと、さらに、Tinagl1発現増加メカニズムにPAK2/p53シグナルが関わることを見出した。本年度では、反応性アストロサイトによるドパミン神経損傷メカニズムの解明を目的として、PAK2阻害薬であるプレニルキノリンカルボン酸誘導体(PQA18)のアストロサイトへの影響を解析した。コントロールおよびTgマウスにPQA18を週3回(1 mg/kg)腹腔内投与した。2ヵ月後、行動解析を行ったのち、脳凍結切片を作製し、GFAP、C3、TH、pPAK2、Tinagl1特異的抗体を用いて、黒質領域を免疫組織化学法により解析した。その結果、コントロールと比較して、Tgマウスのローターロッドテストの保持時間の減少およびグリップテストにおける握力の減少がPQA18によって有意に改善した。また、TH陽性細胞の減少もまた、PQA18によって回復した。さらに、TgマウスにおけるGFAP、C3、リン酸化PAK2、Tinagl1陽性細胞の増加もまたPQA18により改善した。これらの結果からPQA18がPAK2阻害を通してROSによる反応性アストロサイトを抑制することで、ドパミン神経細胞死を減少させることが明らかとなった。
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