研究課題/領域番号 |
21K06601
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
佐藤 久美 北海道科学大学, 薬学部, 教授 (00235334)
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研究分担者 |
高栗 郷 北海道科学大学, 薬学部, 准教授 (90623710)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腹部大動脈瘤 / 血管平滑筋細胞 / YAP1 / 炎症 |
研究実績の概要 |
腹部大動脈瘤の瘤が破裂すると、救命率は極めて低い。現在、腹部大動脈瘤の治療は、ステントグラフト内挿手術などの手術に限られているが、術後にも再び瘤の形成が見られ、著効をもたらす治療薬が切望されている。 腹部大動脈瘤の形成と破裂の機序は、メタロプロテアーゼMMP-2による細胞外マトリックスの分解、血管平滑筋細胞の増殖、細胞死、炎症性細胞の浸潤などの要因が複雑に絡み合っている。申請者は、YAP1が血管平滑筋細胞の増殖と細胞死を制御することを見出している。 本研究の目的は、「腹部大動脈瘤の形成および破裂におけるYAP1の生理的役割を明らかにし、YAP1を標的とした腹部大動脈瘤の革新的な治療薬を創出すること」である。 内在性のYAP1がTNF-αによる炎症応答を制御するのかを検討したところ、siRNAを用いてYAP1をノックダウンすると、TNF-αに誘導されるIL-1β、IL-6などの炎症マーカーおよびMMP2の発現がTNF-α単独に比してさらに亢進していた。これらの結果は、YAP1が腹部大動脈血管平滑筋細胞の炎症を制御することを示唆するものであるが、TNF-αはYAP1のmRNAおよびタンパク質発現には影響を及ぼさなかった。このため、腹部大動脈瘤平滑筋細胞におけるYAP1の制御分子の同定が今後の挑戦である。 腹部大動脈瘤の形成における血管平滑筋細胞のYAP1の生理的意義解明に向け、今年度は平滑筋特異的KOマウスの作製を行った。具体的には、Myh11-CreER/T2マウスとYAP1 flox/floxマウスを交配させ得られたマウスに、タモキシフェンを投与(2mg/day, 5日間)し、2週間後の血管平滑筋細胞のYAP1 の発現が有意に減少することを確認した。今後、本マウスを用いて腹部大動脈瘤モデルを作製し、腹部大動脈瘤の病態形成におけるYAP1の重要性を示していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラット腹部大動脈血管平滑筋細胞を用いた実験では、内在性のYAP1が、TNF-αによる炎症を制御することは見出したものの、TNF-αがYAP1のmRNAおよびタンパク質の発現、ならびに活性化には影響しなかった。このため、腹部大動脈血管平滑筋細胞において、炎症環境下におけるYAP1の発現・活性化を制御するシグナル分子の解明が急務である。
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今後の研究の推進方策 |
①血管内皮細胞ではTNF-αによるYAP1の活性化が確認されていることから、腹部大動脈平滑筋細胞と血管内皮細胞間で、TNF-αによるYAP1発現における影響がどうして異なるのか、内皮細胞と血管平滑筋細胞のYAP1を制御するシグナル伝達の違いに着目して、血管平滑筋細胞における炎症環境下のYAP1の発現・活性化を制御するシグナル分子の解明を試みる。 ②平滑筋特異的YAP1-KOマウスの確立したので、交配により例数が揃い次第、腹部大動脈瘤に対するYAP1の生理的意義の解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に注文した物品の納期が4月を跨いだためデータに反映されず、次年度使用額が生じた。次年度使用額と合わせて、主に、動物実験に用いる浸透圧ポンプや免疫組織染色に用いる抗体などに用いる予定である。
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