腹部大動脈瘤は、無症状のまま腹部大動脈径が進行的に拡張して形成され、巨大化した瘤が破裂し大出血を引き起こすと、その救命率は極めて低い。現在、腹部大動脈瘤の治療は、ステントグラフト内挿手術などの手術に限られており、また術後にも再び瘤の形成が観察される患者が10%程度報告されている。そのため、瘤の破裂に対して著効をもたらす治療薬が切望されている。腹部大動脈瘤の破裂の原因として、メタロプロテアーゼによる細胞外マトリックスの分解、血管平滑筋細胞の増殖・細胞死および炎症性細胞の浸潤などが知られている。これまで申請者は、Hippo経路関連分子YAP1が、腹部大動脈瘤の破裂に係わる血管平滑筋細胞の細胞死を制御することを初めて見出している。本研究の目的は、血管平滑筋細胞のYAP1に着目し、腹部大動脈瘤破裂における役割とその分子機序を解明することである。ApoE欠損マウスにバッククロスをした平滑筋特異的YPA1ノックアウトマウス(YAP1-KOマウス)を作製し、高脂肪食負荷及び浸透圧ポンプを用い、アンジオテンシンII (1000ng/kg/min)を28日間投与することで発生する腹部大動脈瘤モデルマウスを用いて、腹部大動脈瘤の破裂におけるYAP1の役割について検討した。YAP1-KOマウスは、コントロールマウスと比較し、心拍数や収縮期血圧といった生理的パラメーターには影響しなかったが、腹部大動脈瘤の発生率ならびに瘤の最大径は有意に抑制された。これに伴い、YAP1-KOマウスは、コントロールマウスと比較し、瘤部位のエラスチンの分解線維化、およびフェロトーシスがYAP1-KOマウスで有意に抑制された。これらの結果から、YAP1が腹部大動脈瘤の形成に重要な役割を担っており、フェロトーシスがその病態形成に関与していることが示唆される。以上、YAP1は腹部大動脈瘤の治療標的になりうることが示唆される。
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