研究実績の概要 |
がんの分子標的薬及び抗腫瘍性抗体医薬品の開発が積極的に行われているが副作用面で改善や薬価など医療経済的に深刻な問題が残っており、我々はビフィズス菌を腫瘍特異的ドラッグデリバリーシステムとして利用する新しいバイオ医薬品の研究を行っている。 偏性嫌気性常在性腸内細菌であるビフィズス菌を腫瘍特異的DDSとして臨床利用するための安全性の分子基盤を明らかにすることを目的として宿主との相互作用を解析した。本来、細菌の菌体成分を血中に投与すると敗血症が危惧されるが、健常及び担がんマウスにビフィズス菌を静注した場合は、6時間後に一過性の僅かなinterleukin(IL)-12p40の産生が血清中で検出されたのみで、24時間後には測定限界以下に下がっていた。菌の静注後、4日、7日後のリンパ球、好中球、マクロファージなどの免疫細胞の割合には健常時と変化はなく、in vivoのビフィズス菌の静注ではサイトカインストームは観察されなかった。培養マクロファージや樹状細胞を用いてビフィズス菌で刺激した場合、Tlr2遺伝子欠損マウス由来の細胞ではIL-6, IL-12p40などの炎症性サイトカインの産生量が顕著に低下した。また、死菌では免疫刺激応答が認められなかったことから、ビフィズス菌の菌体表面には生菌のみTLR2リガンド物質が含まれており、死菌は免疫学的に安全であることが示唆された。さらに複数のビフィズス菌株を調べたところ、菌株の種類によって宿主免疫応答が異なることが観察できた。従って、より安全性の高い菌を探索し、宿主免疫応答が弱く高安全かつバイオ医薬品の高発現系をもちいたDDSを創生することが重要と考えられた。今後、より詳細にビフィズス菌と宿主免疫細胞の相互作用の分子機構を解析することで、腫瘍特異的DDSの臨床応用の免疫学的安全性構築につながると考えている。
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