研究課題/領域番号 |
21K06615
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
大橋 一晶 岩手医科大学, 薬学部, 准教授 (70344679)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 薬用植物 / セリ科 / センキュウ / 学名 |
研究実績の概要 |
今年度の研究成果は、センキュウについて最新の分類学の知見に基づいた新しい学名(新組合せ)Conioselinum officinale (Makino) K.Ohashi & H.Ohashiを論文発表した点である。これまでセンキュウの学名はCnidium officinaleあるいは Ligusticum officinaleが適用されてきた。セリ科では属を決定する場合に,果実の形態的特徴が有用であるがセンキュウは不稔で成熟果実が得られないため,属の決定が困難であった。センキュウの学名については,Cnidium属への帰属は以前より議論がある。Ligusticum属への帰属は,Ligusticum jeholenseとセンキュウとの未成熟果実を含めた全草の形態の類似に基づく。近年、分子系統解析の進展に伴い、セリ科では、多くの主要な属が多系統であり、分類群の見直しが必要な状態である。センキュウに関しては分子系統解析によりL. jeholenseやL. sinenseに近縁である。さらに L. jeholenseとL. sinenseを果実の解剖形態に基づきConioselinum属(ミヤマセンキュウ属)に移す学説が発表されている。分子系統解析の結果でもL. jeholenseやL. sinenseはConioselinum属のタイプ種C. tataricum Hoffm.を含む一群のグループに含まれ,Conioselinum属であることを支持する結果となっている。一方でCnidiumやLigusticumのタイプ種はセンキュウを含む種群とは系統的に離れていることが明らかになっており,センキュウをCnidium属やLigusticum属に含めるのは困難であると考えられる。そこでセンキュウをConioselinum属(ミヤマセンキュウ属)に移し,新しい学名(新組合せ)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで通用していたセンキュウの学名には分類学的に問題があった。そのため本研究の目的は分類学的に問題のない安定化したセンキュウ学名の発表である。今年度は最新の分類学の知見に基づいたセンキュウの学名Conioselinum officinaleを発表できたため、本研究の目的を達成することができた。したがって、今年度は計画を上回る進展が見られたと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
センキュウの結実個体作成については、引き続き根茎の薬剤処理を行い倍数体の作成を試みる。さらに、すでに根茎全体を薬剤処理した株については、開花時の花粉形成を指標に倍数体のスクリーニングを行う。 また、Ligusticum sinenseとして得た植物個体が別種であることが、昨年度に分かった。中国の植物園からの薬用植物の種子交換で1980年代に得た植物であることから、この植物は日本に自生しないセリ科薬用植物である可能性がある。本研究の過程で派生的に生じた課題ではあるが、薬用資源として興味深いため解析を進める。セリ科の分類・種同定には果実の形態解析が重要である。今年度に開花結実が見込まれるため、遺伝情報のみならず形態情報からも種同定の作業を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物組織培養のためのインキュベーターを購入予定であったが、センキュウの根茎を薬剤処理したのち園圃に直接植え付けることが可能であることがわかった。したがって現在のところ培養作業は不要となり、インキュベーターの購入を見合わせている。一方で、雑種であることを示すための解析費用が予想外に高額であることがわかったため、それらの各種解析費用に、繰越費用を当てる予定である。
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