研究課題/領域番号 |
21K06623
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
能勢 充彦 名城大学, 薬学部, 教授 (60228327)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 甘草配合漢方処方 / グリチルリチン / グリチルレチン酸 / 血中濃度 / 腸内細菌叢 / βグルクロニダーゼ / 加水分解反応 |
研究実績の概要 |
本研究は、漢方エキス製剤の安全使用を目的として、代表的な甘草配合漢方エキス投与時の血中グリチルレチン酸(GA)濃度推移を測定し、薬物データベースとして確立するものである。甘草は、一般用および医療用漢方処方の約7割に配合され、その主成分であるグリチルリチン(GL)は抗炎症作用をはじめとした種々の薬理作用に関わる一方で、低カリウム血症などの副作用の発現にも関わることが知られている。GLは、経口投与されると、消化管内で腸内細菌叢による加水分解を受け、アグリコンであるGAとして吸収され、血中に存在することが知られていることから、研究代表者はマウスに代表的な甘草配合漢方エキスを経口投与し、各時間に採血を行い、血中GA濃度推移を明らかにすることとした。 これまでに、小柴胡湯、小青竜湯、補中益気湯、芍薬甘草湯、半夏瀉心湯、苓甘姜味辛夏仁湯、苓桂味甘湯、杏蘇散、六君子湯、十全大補湯の10処方のエキスを作製して検討を行った。実験動物として雌性BALB/cマウス(7~8週齢)を用い、18時間の絶食の後、各漢方エキスをヒト常用量の10倍量として経口投与し、投与後48時間まで経時的に採血を行い、そのGA濃度について高速液体クロマトグラフィーにより定量を行った。 その結果、各エキスの48時間までの血中濃度曲線下面積はそれぞれGLとしての投与量や甘草配合量とよい相関を示し(r=0.86およびr=0.83)、絶食下、単回投与におけるGAの血中動態は甘草の配合量からも推定できることが示唆された。一方、最高血中濃度については投与量や配合量とは低い相関性しか示さず、またその到達時間についても一定の傾向を示さなかった。 これらの結果は、GLからGAへの加水分解反応が他の構成生薬由来成分により影響されることを示唆しており、現在マウス盲腸内容物から腸内細菌叢溶液を調製し、各処方の加水分解活性を検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現在までに、マウスを用いた血中GA濃度推移を10処方まで実施できたものの、各処方の最高血中濃度の違いをマウスの盲腸内容物におけるGLからGAへの加水分解反応の違いによるとする仮説の証明が当初の予定よりも遅れている。その理由として、納入している実験動物の腸内細菌叢が時期により変動している可能性が強く考えられ、その追究に時間を要したことが挙げられる。 実験動物の反応性が生産所や企業によって変動することは、薬理学の分野などにおいて知られることであり、遺伝的な要因よりも環境要因が実験結果に影響を与えることはときどき経験する。そのため、生産所を固定して、できるかぎりそうした変動がないようにと実験条件を設定するのが常であり、またこれまでに違和感を覚えることはなかったが、本年度残念ながら同一生産所から購入したマウスでも時期によって、同じ甘草配合処方を投与した際の血中GA濃度推移に大きな差異があることを経験した。実際、血中GA濃度の時間推移ははほとんど同じ位相となってはいたものの、血中濃度に差があり、結果的にAUCやCmaxに大きな差が観察された。この違いを腸内細菌叢の加水部分解反応の違いだと考え、マウスの生産体制を調べて、盲腸内容物のGL加水分解活性の検証などを行ってきた。現時点では、まだ結論的なことは分かっていないが、同一時期に購入したマウスの盲腸内容物を用いて、各処方のGL加水分解反応を比較検討することができるように条件設定を行ったので、現在は比較が可能となってきている。 今後、さらにデータを拡充していくためには、生産所および生産体制による変動をいち早く確認する手法を確立する必要があり、当初目的を達成することができるようにと現在進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、これまでに投与実験を終了している10処方のマウス腸内細菌叢による加水分解反応を比較検討を進めている。さらに、消化管からのGAの吸収に与える構成生薬の影響も検証したいと計画している。これら二つの検証は、本年度事前にマウスの新鮮糞便を採取してGLの加水分解反応を測定することにより、当該マウスの腸内細菌叢の状況を確認できることが判明したので、それを利活用してマウスの腸内環境を事前に確認して進めることができるのではないかと考えている。 また、消化管からのGAの吸収に与える影響については、絶食下のマウスにGAを経口投与した場合、投与後45分に最高血中濃度を迎えることも予備的に明らかにしており、このタイミングであれば、処方に含有されるGLも加水分解されることはないと考えられるので、処方にGAを添加して経口投与し、各処方におけるGA吸収を比較できると考えている。 次年度は、本年度に経験したマウスの腸内細菌叢の変動に留意しながら、当初の計画を遂行できるようにしたい。
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