研究課題/領域番号 |
21K06630
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森元 聡 九州大学, 薬学研究院, 教授 (60191045)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | THCA / シロイヌナズナ / 根冠形成 / IAA20 / IAA30 |
研究実績の概要 |
本年度は、THCA処理によって根で発現する遺伝子量の変動を網羅的に解析するために、最初にマイクロアレイを行った。THCA存在下で発根させたシロイヌナズナの根部と未処理の根部から、それぞれmRNAを調製した後、cDNAを合成した。このcDNAを用いてマイクロアレイを行った結果、THCA処理によって数種のオーキシン応答型遺伝子(IAA20、IAA30、IAA32、IAA34)が顕著に増加することが明らかとなった。 さらにこれら4種の遺伝子の発現量の変化を正確に解析するためにReal-time PCRを行ったところ、いずれの遺伝子にもTHCAによる顕著な発現上昇が認められた。IAA20やIAA30 を人為的に過剰発現させたシロイヌナズナでは、根冠形成の抑制や根の成長阻害などが報告されており、THCA処理したシロイヌナズナの根部と同じレスポンスを示すことが判明した。したがって、THCA処理したシロイヌナズナでは、IAA20やIAA30の発現を通して、根冠部の形成阻害や根の成長阻害が誘導された可能性が推察された。IAA20やIAA30を誘導する二次代謝産物はこれまで報告されてないことから、THCAは極めて興味深い活性を有するものと考えられる。現在、本仮説を証明するために、IAA20やIAA30 の遺伝子発現を人為的に抑制したシロイヌナズナ形質転換植物を作成中である。 また、IAA32及びIAA34 の根冠形成における生理的役割の解明も進めている。IAA32やIAA34はシロイヌナズナの茎の屈曲に関与する遺伝子であり、根での発現は報告されてない。THCA処理したシロイヌナズナの根では、不自然な屈曲がみられることから、IAA32やIAA34の発現誘導が根の屈曲に関与している可能性が推定された。この推定を証明するために両遺伝子の発現を抑制した形質転換シロイヌナズナを作成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、THCA処理によってIAA20やIAA30の遺伝子の発現量が明確に増加することを確認した。興味深いことにこれらの遺伝子の人為的な過剰発現は、根冠形成を阻害することが他のグループによって証明されている。したがってTHCAによるシロイヌナズナの根冠形成阻害はIAA20やIAA30の発現によって誘導される可能性が考えられた。このように植物二次代謝産物による根冠形成遺伝子の発現制御は、これまで報告はなく、きわめて興味深い知見である。申請課題では、根冠形成に関わる遺伝子の特定を目的としていることから、当初の目的の一つを達成している判断した。また、本年度はTHCAによって影響を受ける遺伝子群の発現を抑制した形質転換植物の作成も行うことを計画しており、IAA20やIAA30 の発現が抑制された形質転換植物については、他研究室から譲渡されている。現在、これらの形質転換植物を使用してTHCAの影響を解析している。 上記の新しい知見に加えて、THCAがIAA32やIAA34などの茎の屈曲に関与する遺伝子も誘導することを明らかにした。両遺伝子は根には発現しないとされているが、THCA処理によって根でも発現が確認されており、これまでにない新規な知見を得ることができた。 さらに本年度ではミトコンドリアが根冠形成の阻害に関与していることも証明している。すなわちMPTporeの開口を阻害するシクロスポリンAをシロイヌナズナに投与したのち、THCAを処理すると、根冠形成阻害が抑制されることを発見した。ミトコンドリアに存在するMPTporeを開口はミトコンドリアの障害を誘導することとから、THCAはミトコンドリアの障害を通して、根冠形成を抑制することが明らかとなった。 このように本年度は、多くの新しい知見が得られるなど、当初の目標通りの研究成果が得られたことから、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はTHCAによる発現誘導が確認された4種の遺伝子(IAA20, IAA30, IAA32, IAA34)の機能を詳細に解明する予定である。具体的にはこれらの遺伝子にGUS遺伝子やGFP遺伝子を付加したキメラ遺伝子を有する形質転換植物を作出し、これらの遺伝子の発現パターンをin situで解析する。また、上記の4種の遺伝子の発現を抑制した形質転換シロイヌナズナを作出したのち、THCAがこれらの形質転換植物に与える影響を解析することによって、根冠形成阻害のメカニズムを遺伝子レベルで解析する。 THCAによるミトコンドリアの障害が、根冠形成を阻害していることを明らかにしたので、ミトコンドリアと根冠形成の関係を遺伝子レベルで解明する計画である。具体的には、シクロスポリンA処理によって、発現量が変動する遺伝子の解析を検討する。 THCA存在下で発根させたシロイヌナズナでは、根冠以外の根部はTHCAに対して抵抗性を示すことから、efflux pumpの関与が推察された。今回行った、マイクロアレイで、発現量が上昇するefflux pumpが確認されたので、その遺伝子の発現を抑制した形質転換植物や、逆に恒常的に大量発現する形質転換植物を作成し、両形質転換植物のTHCAに対する耐性の変化を詳細に解析する計画である。
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