研究課題/領域番号 |
21K06632
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
高山 靖規 昭和大学, 医学部, 講師 (60711033)
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研究分担者 |
丸山 健太 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 特任准教授 (60724119)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Piezo1 / 大腸ガン / リクイリチゲニン / TRPV4 |
研究実績の概要 |
細胞膜の伸展や圧迫により活性化する非選択的カチオンチャネルであるPiezo1の活性化は癌細胞増殖を促す。その為、Piezo1 阻害剤の探索は新規の癌治療の光明となることが期待されるが、現時点でその存在はほとんど知られていない。本研究においては、フラボノイドの一種であるリクイリチゲニンにPiezo1阻害効果があることを発見しており、この天然化合物は新規抗癌剤シーズとしての可能性を秘めている。 実際、培地へのリクイリチゲニンの付加によりマウス大腸ガン由来細胞株CMT-93細胞はほぼ全滅した。これに加えて、既存の抗がん剤であるフルオロウラシルも検討したが、全滅とまではいかなかった。 ゲノム編集によりPiezo1を欠損したCMT-93細胞を作製した。しかしながら、Piezo1欠損型においても野生型と同等にリクイリチゲニンは細胞を殺滅した。ただし、Piezo1活性化剤であるYoda-1による増殖促進は欠損型では観察されなかった。さらに意外なことに欠損型のベースの増殖能は野生型よりも向上していた。この結果の要因として考えられることはPiezo1と同じようにカルシウムを透過させることのできるイオンチャネルTRPV4の発現である。TRPV4も細胞膜伸展により活性化する。RT-PCRにより欠損型ではTRPV4が高発現することを発見している。 これらの結果から、リクイリチゲニンによる抗がん作用はPiezo1非依存的である可能性があるが、一方でPiezo1欠損により増悪化したガン細胞をもリクイリチゲニンは撃滅し得ることが判明した。また、Piezo1欠損型においてはTRPV4が新たな阻害標的となる可能性が生じた。 Piezo1自体の機能解析も進めており、細胞培養において用いるディッシュ面をマトリジェルコーティングすることによりPiezo1の機械刺激による活性化が高まることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CRISPR-Cas9ゲノム編集によるPiezo1欠損CMT-93細胞の作製が完了した。また、それを使った薬理学的検討がおおよそ終わった。現在、マウスにおけるDSS誘発大腸炎および大腸ガンに関するin vivo実験の準備も整った。 Piezo1以外のカルシウム透過性チャネルの探索も行なった結果、TRPV4がCMT-93に発現しており、Piezo1欠損型CMT-93細胞ではより高発現していることをRT-PCRにより解析できた。これは、Piezo1欠損に伴うガンの悪性化にTRPV4が寄与する可能性を示している。
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今後の研究の推進方策 |
リクイリチゲニンは腸内細菌叢においてリクイリチンより代謝される。そこで、リクイリチンを経口投与したマウスにおいてDSSによる腸炎および大腸ガンの発生が抑制されるのかを検討する。 Piezo1がより活性化する培養条件を発見した為、リクイリチゲンによる抑制効果にその条件が影響するのかホールセルパッチクランプ記録により検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品などを節約し、また必要と思われていた検討数を下回る実験数で前進的結果を得た為、予測よりも使用額が低くなった。生じた次年度使用額は、本研究過程における新たな発見のさらなる検証の為に必要な実験機器や消耗品などの購入に充てる。また、その成果発表、共同実験のための旅費などにも次年度使用額分を充てる。
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