研究課題/領域番号 |
21K06635
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高宮 知子 日本大学, 薬学部, 講師 (50513917)
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研究分担者 |
遊川 知久 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, グループ長 (50280524)
辻田 有紀 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80522523)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | セッコク属植物 / 菌根菌 / 共生 / 生合成遺伝子 |
研究実績の概要 |
薬用植物として重用されているDendrobium officinale(キバナノセッコク)の幼苗を3種類の共生菌(ツラスネラ科のTU22及びTU27、セレンディピタ科のSE1)とそれぞれ共培養した後、植物の重量を測定したところ、菌と共培養した幼苗の総重量は、無菌培養した幼苗(control)と比較すると増加傾向を示した。次に、共生菌がD. officinaleの生合成遺伝子の発現に及ぼす影響を検証するため、糖代謝、メバロン酸経路、ポリフェノール生合成経路に関連する遺伝子に関して、RT-PCRを用いた発現解析を行った。その結果、菌との共培養によってポリフェノール生合成に関与する遺伝子の発現上昇が見られた。Dendrobiumからは、ビベンジルとフェナントレンが数多く単離されており、それらの中には生物活性を示す化合物が多い。また、これらの化合物は菌の感染によって増加することが知られている。ビベンジルの生合成はbibenzyl synthase (BBS)が触媒し、D. officinaleでは6つのBBS及びBBS-like (BBSL) genesが登録されているが、その遺伝子制御に共生菌が及ぼす影響は明らかでない。そこで本研究では、上述の3種類の共生菌が、BBS及びBBS-like(BBSL)の遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。 その結果、コントロールに比べて、TU22とTU27と共培養した幼苗では、特定のBBS遺伝子の発現量が早期に高くなっていた。一方、SE1と共培養した幼苗では同様の傾向は見られなかった。つまり、共生する菌によって異なる変動パターンを示した。また、変動パターンは遺伝子によっても異なっていた。D. officinaleにおいて、系統的に近縁の遺伝子の発現変動パターンは類似していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特定の共生菌との共培養によって複数のBBS遺伝子の発現が早期に上昇することが明らかとなった。さらに、植物エキスの総フェノール量を測定したところ、菌共生を行った植物体の方がフェノール量が増加している傾向が見られた。これらのことから、本研究の遂行によって、最適な共培養条件を明らかにすることで、Dendrobiumの有用物質を増産させる栽培技術の開発につながる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、D. officinaleから単離された共生菌(TU22, TU27, SE1)が、BBS及びBBSLの遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。その結果、無菌で培養した幼苗では、遺伝子発現が増加するまでに8週間以上かかった遺伝子が、2もしくは4週間程度で高い発現を示していた。つまり、菌と植物の相互作用を利用して、短期間で遺伝子の発現を増加させて、化合物の生産量を増加させることができるかもしれない。今後、菌共生によって、植物の生産するビベンジル及びフェナントレンの量がどの時期に増加するのかを、遺伝子発現と共に経時的に解析する。さらに、6つのBBS遺伝子の発現変動パターンは、遺伝子間や共生する菌によって、異なっていた。これらのことから、目的の化合物と関連する生合成遺伝子を特定し、その遺伝子発現を促進する菌を絞り込む必要がある。そこで、D. officinaleから単離されているビベンジルに関して、LC-MS等を用いて、その生産量の変化を継時的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度実施予定のLC-MS等を用いたメタボローム解析が当初の計画よりも遅れたため、差額が生じた。令和5年度はメタボローム解析を重点的に実施するため、当該試薬に充てる。
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