研究課題/領域番号 |
21K06636
|
研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
井上 誠 愛知学院大学, 薬学部, 教授 (50191888)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 核内受容体 / レチノイドX受容体アゴニスト / アルツハイマー病 / 脳内炎症 / ミクログリア / アルツハイマー病疾患マウスモデル |
研究実績の概要 |
近年アルツハイマー病(AD)の発症原因として、脳内ミクログリアの持続的な活性化により惹起される脳内炎症の関与が示唆されており、ミクログリア機能を巧妙に制御することでADの発症を抑制できる可能性が考えられる。そこで本研究では抗炎症や神経保護作用が期待されるレチノイドX受容体(RXR)アゴニストに焦点を絞り、これまでに当研究室でホオノキの地下部より得たmagnaldehyde Bの構造を基に合成したRXRアゴニスト6OHA(EC50:12.7 nM)がミクログリアに及ぼす作用を調べた。 本年度は6OHAが、1)ミクログリア細胞株BV-2及びMG5に及ぼす作用、2)アルツハイマー病モデルAPPNL-G-Fマウスに及ぼす作用を検討した。 結果1: 6OHAはリポ多糖などで刺激したBV-2細胞で誘導される炎症性サイトカインや炎症メディエーター合成酵素のmRNA産生を0.1~1μMの濃度で強く抑制し、その抑制作用はRXRアンタゴニストで阻害された。一方、他の核内受容体(PPARs、LXR、RAR)アゴニストでは同様な抑制作用は見られなかった。 結果2: 6OHAはMG5細胞の貪食関連遺伝子Tgm2、Axl、Mertk、Cd36及び神経保護作用が期待されるCcl6、Mt1/2のmRNA発現を上昇させた。それらの作用はLXRやRARアゴニストの共存下で増強された。 結果3: 6OHAをマウスに経口投与し、6OHAの血中及び脳内濃度をLC/MS/MSで分析したところ、投与後30分をピークに脳内で6OHAが検出され、6OHAはBEXより吸収速度が速く、脳内で数倍高濃度になることがわかった。 結果4: APPNL-G-Fマウスに6OHAを経口投与したところ、海馬、大脳皮質でTgm2、Axl、Ccl6のmRNAが増加し、6OHAは脳内ミクログリアの貪食能と神経保護作用を亢進させる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に記載した計画1)RXRアゴニストがミクログリアの炎症及び機能に及ぼす作用を明らかにする研究は、ミクログリア細胞株BV-2及びMG5を用いて順調に進行している。RXRアゴニストが0.1~1μMの濃度で強い抗炎症活性を示すことが明らかになり、その作用機序に関してはこれまでに核内受容体アゴニストに関して報告された機序では説明できない新たな発見があり、今後の作用機序の解明が期待される。さらに、抗炎症作用あるいは神経保護作用が報告されている遺伝子のmRNA発現をRXRアゴニストが誘導することが明らかになり、それら遺伝子産物が脳内における抗炎症作用に関与する可能性を調べる新たな研究課題が出てきた。計画2)のin vivo研究では、6OHAの薬物動態をLC/MS/MSで検討し、6OHAが既存の合成RXRアゴニストであるBEXより有用なアゴニストであることを明らかになった。また、6OHAが加齢アルツハイマー病モデルAPPNL-G-F マウスの脳内炎症に及ぼす効果を検討し始め、6OHAを経口投与することにより貪食及び神経保護関連遺伝子mRNAが海馬、大脳皮質で誘導されることを見出しており、in vitro実験系での6OHAの作用がin vivoでも観察されたことで、6OHAのミクログリア機能の調節作用の解析をさらに進める予定である。 以上のように、研究計画に沿って研究は順調に進捗している。また、本年度の研究において新しい展開があったので、今後は当初の研究計画の幅をさらに広げて研究を遂行する予定である。現在の研究の進捗状況を勘案すると、本研究課題の目的は期限内に十分に達成できるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度、本研究において新たな展開があったので、今後以下のように研究を進める。 計画1)RXRアゴニストがミクログリアの炎症及び機能に及ぼす作用を明らかにする研究は、6OHAが抗炎症作用を示すことが明らかになったので、これまでに抗炎症作用に関する報告のある核内受容体アゴニストとの相違に焦点を当て、当初の研究計画に従い、作用機序の解明を目指す。1)LPS、TNFα、IL-1βのシグナル伝達系に着目して、6OHAの標的分子の同定を行う。2)RXRαをノックダウンしたBV-2細胞を作製して、6OHAの抗炎症作用に及ぼす影響を調べる。3) 6OHAが示す抗炎症作用が、RXRを介した単独の作用か、あるいは、他の核内受容体とのRXRヘテロダイマーを介した作用なのかを解析する。特に、核内受容体Nurr1の関与について、Nurr1のノックダウン細胞を作製するなどして詳細に検討する。 計画2)6OHAがMG5細胞で誘導することを見出した貪食あるいは神経保護作用関連遺伝子産物、特にケモカインCcl6及びCcl9、メタロチオネインI /II、サイトカインFGF2の脳機能における生理的な意義を細胞レベルあるいは個体レベルで解明する。 計画3)アルツハイマー病モデルAPPNL-G-Fマウスは加齢に伴い脳内で慢性炎症が惹起されることを確かめており、6OHAが脳内炎症及び脳保護に及ぼす作用について、生化学的、分子生物学的及び免疫組織化学的手法で解析する。 計画4)既存RXRアゴニストBEXと比較して、6OHAは薬物動態学的に優れたRXRアゴニストであることが示唆されたので、さらに詳細にLC/MS/MSで6OHAとBEXの薬物動態を比較検討する。また、BEXが示す副作用の一つ肝腫大が6OHAでは非常に軽微であったというデータを得ており、6OHAとBEXの副作用誘発の程度、機序に関して比較検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1)次年度の実験計画で、6OHAの薬物動態を詳細にLS/MS/M Sで定量するが、その際に6OHAの標準物質として重水標識した6OHAを調製する。その費用が高額であるので、本年度の研究費を次年度に回すことにした。2)次年度は6OHAを加齢マウス10ヶ月齢及び15〜20ヶ月齢のAPPNL-G-Fマウスに経口投与して、脳内炎症、及び、貪食能、神経保護作用等を重点的に検討する。その際に各種のElisaキット及びウェスタンブロッティング用抗体を使用するので、その費用を本年度研究費から流用することにした。3)研究の進展に伴い新たな標的遺伝子をノックダウンした細胞を shRNAを用いて作成するための費用、RT-qPCR用試薬、その他、分子生物学、生化学、免疫組織化学用試薬の購入に多くの研究費を使用する予定である。 上記、研究費以外のものは当初の計画に合わせて使用予定である。
|