研究課題/領域番号 |
21K06637
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
中嶋 聡一 近畿大学, 薬学総合研究所, 研究員 (50724639)
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研究分担者 |
中村 誠宏 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (20411035)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経新生 / 神経細胞 / PC-12 / フラボノイド / 認知症 / シード |
研究実績の概要 |
本研究では糖化タンパク質が成人脳内での神経新生を起こりにくくすることで認知症の進行に関与するという仮説に基づき、認知症に対する治療薬シード探索の新規ターゲットを解明し、そのターゲットに直接結合し作用する標的指向性の高い化合物を天然物ライブラリーより見出すことを当初より計画している。本年度はこのうち、ターゲットとするタンパク質(主に転写因子)の検討に注力した。すなわち、神経様細胞内において糖化タンパク質により引き起こされる遺伝子発現量の変化をいわゆる次世代シーケンサー(主にCap analysis of gene expression解析法:転写開始点ごとの発現量をほぼ正確に解析可能な手法)によって解析し、変化した個々の遺伝子の発現量から相対的に統計検定を行い、共通する転写因子群からターゲットを絞った。特に、研究計画時におおよその検討をつけていた転写因子のうち、関与の可能性が高い転写因子が確認されたことは、次年度以降の医薬シード探索を推進する上でターゲットとして考慮する上で重要である。一方で、一般的なフラボノイド群が本研究対象による神経様細胞突起伸展抑制を改善するかどうかの検討を開始し、わずかながら知見を得た。また、標的タンパク質を利用した植物抽出エキスからの標的指向性の高い成分、すなわち結合親和性の高い成分の解析方法を報告できた。今回報告した手法では、今後の研究の展開において一般化が容易になるよう、市販のSH標識ポリスチレンビーズと架橋剤、および市販の抗体を利用することで培養から抽出した標的タンパク質を用いて、なるべく簡易に実施できるように考慮した。このように簡易な手法によって結合親和性の高い成分の解析方法の開発に成功し、報告できたことは、本研究の今後の進捗上、重要と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、新たな治療方針に根差した認知症治療薬シード探索の新規ターゲットとして、これまで検討していた転写因子のうち、ERF、E2F1およびCREB1の関与が高いことを統計学的に確認でき、国内学会発表にて報告した。またD―グルコース、D―リボース、D―フルクトースの3種類の糖を用いて糖化タンパク質をそれぞれ反応時間別に作成し、神経様細胞突起伸展に与える影響を比較した。その結果、影響の強弱はタンパク質に対する各糖が示す反応性とは必ずしも一致しないことが明らかとなった。一部は邦文誌にて報告した。一方で本研究に重要なシード探索・解析手法の開発面においては、細胞内の骨格形成に関与するcofilinを利用することで、cofilinを標的とする成分を植物エキスから検出・抽出する手法を実施し、同植物抽出エキスからはそれまでに報告されていなかったククルビタン型トリテルペンの一種であるisocucurbitacin Dを見出した。手法には市販のSHラベルポリスチレンビーズや、架橋剤としてsulfo-SMCC (sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)を使用し、標的タンパク質の精製には市販の抗体を利用した免疫沈降法を用いるなど、今後の展開を考慮し、なるべく簡易な方法を目指した。また同成分がcofilinを介して作用を示すことを周辺タンパク質のリン酸化体の発現量の変化を比較することや、cofilinへの結合によって細胞内で影響を受けることが予想される骨格タンパク質actinのモノマーと重合体の比率を検出することで確認し、本手法の有効性を確認した上で、査読付き英文誌にて報告した。
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今後の研究の推進方策 |
概ね当初の研究計画通り進める予定である。すなわち、1年目に開発した解析手法を用いて、見出した標的候補タンパク質に対する結合親和性の高い物質の探索をおこなう。初めのターゲットタンパク質には他の神経細胞突起伸展に関する研究でも言及のあるCREB1(cAMP Responsive Element Binding Protein 1)について検討する予定である。探索対象とする化合物群(もしくは生薬エキス、植物抽出エキス)については広く検討する予定ではあるが、特にフラボノイドについては一部分作用評価をおこなったことから、スクリーニング対象となる化合物群としてフラボノイドも候補(代表的フラボノイドであるquercetinやkaempherolを軸に、官能基の1置換、2置換体を中心に検討する)としている。なお、良好な結果が得られた場合、可能であれば構造との関連性も検討し、のちの研究後半に予定している構造の最適化・誘導化の際の基準となる知見につなげたい。その他、認知症の治療薬開発の重要な点である血液脳関門の透過性や脳移行性の問題も考慮し、中枢神経系にて作用を示すことが知られている生薬や植物の抽出エキスを中心に進める予定である。3か年計画のうち2年目については、基本的には物理的に標的タンパク質と結合親和性の高い物質・成分の探索に注力する予定で、その作用や作用メカニズムの確認については3年目に予定しているが、研究の進捗状況により若干の前後はあると考えている。以上により、糖化タンパク質が影響することで引き起こされると仮説を立てている認知症に対し、新たな治療メカニズムに基づく標的指向性の高い認知症治療薬シードの開発の初期に充てたい。
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