最終年となる令和5年度も、当初の計画に従って研究を実施した。令和4年度に、合成を達成したアミド型ヒダントイン誘導体のサンプルを確保するため、まず、その大量合成を行なった。その後、独自に培養したアサクサノリ葉状体に対して、合成した化合物を添加し、単胞子分化誘導活性を確認した。しかし、予想に反して、効果は中程度に留まり、これまでのスクリーニングの中で見出している候補化合物を上回ることはなかった。 次に、これまでの系統的かつ網羅的に合成してきた化合物群の中で、最も高い単胞子分化誘導活性を示したカルボン酸誘導の不斉合成に着手した。そして、天然型と非天然型アミノ酸を原料に、2種の光学異性体を調製した。合成した光学活性化合物においては、アサクサノリに対する分化誘導活性を確認した。そして高い活性を示した異性体のみを使って、高純度な単胞子を採取した。最終的に、採取したアサクサノリ単胞子は室内培養することで、葉状体へと分化することも確認した。紅藻のアサクサノリは、緑藻類等と比較すると、約100倍近い窒素やリンが正常な成長に必須であることが知られている。色落ちは、海藻本来の風味や味に強く影響を及ぼすため、食用海藻としての価値を著しく低下させる。室内培養したアサクサノリ種苗も同様で、汲み上げた海水のみを使って陸上養殖すると、頻繁に色落ちが観察された。この課題に対しては、別途、報告者らが取り組んでいるドラッグデリバリーシステム(DDS)技術を応用した徐放性肥剤を使用することで、色落ちの頻度を軽減できることが分かった。
|