研究課題/領域番号 |
21K06641
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
柴田 智博 信州大学, 医学部, 日本学術振興会特別研究員 (40795986)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | TNBC / ER / 乳癌 / 内分泌治療薬 |
研究実績の概要 |
乳癌の約8割は増殖に関わるERα又はHER2を発現しており、それぞれを標的とした治療薬が用いられ90%以上の5年生存率を示す。しかし、乳癌の約2割を占めるトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は乳癌の他のサブタイプと比べ5年生存率が70%と依然として予後が悪い。その要因として、他のサブタイプと異なり標的分子がなく有効な分子標的薬がないことがある。最近、申請者はTCGAデータベースを駆使した検討によりTNBC患者において乳癌のオンコプロテインであるYB-1のリン酸化体の発現が他のサブタイプの乳癌に比べ有意に増加していることを明らかにした。さらに、リン酸化YB-1阻害によりERα発現が上昇しERα標的薬に対する感受性を獲得することを見出している。 本年度はTNBC細胞株を用い検討を行った結果、以下について明らかにしている。 TNBC全般にリン酸化YB-1によってERα発現が制御されているか否か明らかにするため、TNBC細胞株7株を用いリン酸化YB-1阻害薬のERα発現に対する影響について検討を行った。その結果、7株中3株においてERα発現が上昇しERα標的薬に対して感受性が増加することを観察した。さらに、YB-1 siRNAを用いたYB-1発現抑制実験においても、リン酸化YB-1標的薬によりERα発現が誘導された細胞株でのみ、同様にERα発現が上昇することを観察した。 また、リン酸化YB-1阻害薬によりERα発現が増加する株に着目し、ERαの発現制御メカニズムについて検討を行った。その結果、リン酸化YB-1阻害薬はERαのmRNA発現に影響を与えなかったが、ERαタンパクの安定性を上昇することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はERαやHER2などの乳癌における治療標的のないTNBCにおいて、乳癌の発症に関わるYB-1の阻害によるERα発現上昇に着目し、これまで治療標的がないため積極的に分子標的治療が行われてこなかったTNBCにおいて、既存のERα標的薬をTNBCの治療に応用できる可能性を明らかにしていく。今年度の検討において、ERα発現がリン酸化YB-1により制御される細胞とリン酸化YB-1により制御を受けない細胞があることが明らかになっており、今後、ERα発現が上昇する細胞群の特徴を把握することで、ERα発現が変化しなかった細胞のERα発現制御メカニズムを明らかにしていく必要がある。 しかし、TNBC細胞におけるERα発現制御メカニズムに関しては、その制御メカニズムの一端を明らかにしており、当初の予定通りの進展を示していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の検討により、ERα発現制御メカニズムを明らかにしつつある。そこで、来年度は以下について検討を進める。 全てのTNBC細胞株においてリン酸化YB-1阻害薬によりERα発現が誘導されなかったことから、今後はTNBCにおけるサブタイプにも着目しERα発現が誘導されるTNBCの特徴を把握していく。その結果、リン酸化YB-1標的薬とERα標的薬が有効なTNBCのサブタイプを明らかにする。 さらに、YB-1の恒常リン酸化体を導入したTNBC細胞を用い、リン酸化YB-1がERα発現に影響を与えるか否か、また、ERα標的薬の感受性を制御しうるか否か明らかにする。 また、TNBCに対するYB-1標的薬の動物治療実験系における有効性の評価を行う。具体的に、①TNBC細胞株を移植したマウスxenograft実験系を用いて、リン酸化YB-1標的薬単独や他剤との併用投与による治療効果をin vivo系で明らかにする。現在までの検討によりリン酸化YB-1阻害薬とERα標的薬のin vitroにおける併用効果が観察されていることから、ERα標的薬との併用を行う。②リン酸化YB-1標的薬を投薬した腫瘍切片を用いて、YB-1のリン酸化やYB-1リン酸化シグナル因子を免疫染色やウエスタンブロッティング法、RT-PCR法により検討し、腫瘍抑制効果との関連を明らかにする。
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