研究課題
本研究の目的は、腸内細菌叢の破綻による炎症性腸疾患を模倣するマイクロ流体チップを作製し、治療候補薬の簡便なスクリーニング系としての有用性を検証することである。3年間の補助事業期間の1年目に当たる本年度は、腸管上皮細胞のモデルであるCaco-2細胞、杯細胞のモデルであるHT29-MTX細胞および腸内細菌の共培養系の確立と評価に取り組み、以下の成果を得た。1. Caco-2細胞とHT29-MTX細胞の共培養系の確立とその評価 マイクロ流体チップ上において、腸管上皮細胞のモデルであるCaco-2細胞と杯細胞のモデルであるHT29-MTX細胞を流れ場の中で種々比率で培養した。粘液の染色法であるアルシアンブルー染色を用いて粘液の産生を確認した。また、腸における粘液の主成分である分泌型ムチンMUC2について、RT-PCRおよび免疫染色によりmRNAおよびタンパク質レベルで発現を確認した。これらの結果と腸管バリア機能の指標として用いたデキストランの透過係数より、両細胞の最適な比率を9:1と決定した。2. 腸内細菌と細胞の共培養系の確立とその評価 上記で作成した共培養細胞に対して、腸内細菌を処置し、毒性の検討を行った。腸内細菌としては、ヒト腸から単離した細菌であるLactobacillus rhamnosus GG (LGG)と腸管毒性を有する腸管侵入性大腸菌EIECを使用した。LGG単独処置では、4日間細胞のバリア機能が保たれていたことから、細菌と細胞の共培養が可能であることが示された。一方、EIEC単独処置では6時間で細胞バリア機能の破綻が見られたが、腸管保護効果を有するLGGを前処理することで12時間まで共培養時間を延長することができた。
2: おおむね順調に進展している
1年目の目標は、腸管上皮細胞のモデルであるCaco-2細胞、杯細胞のモデルであるHT29-MTX細胞の共培養系を確立した上で、さらに腸内細菌を含めた共培養系を確立することであった。前者では、細胞バリア機能と粘液の産生を指標に両細胞の最適な比率を決めることができ、共培養系を確立できたと判断した。後者では、プロバイオティクスとして腸管保護作用を有するLGGでは細胞バリア機能の破綻が小さく、毒性を持つEIECでは細胞バリア機能が数時間で破綻したことから、本共培養系で腸内細菌の特性を反映することができた。さらに、EIECの毒性に対してLGGの保護効果を確認することができた。これらの結果は既報の結果を良く再現しており、本研究で使用しているマイクロ流体チップにおいても腸内細菌の共培養系について確立できたと判断した。以上より、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
次年度は、免疫細胞をマイクロ流体チップの下側流路内で培養し、腸管免疫を再現できる腸管チップの確立を目指す。免疫応答の確認のため、リポ多糖LPSにより刺激を与え、その際に炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、TNF-αなどの分泌をELISAで確認する。また、腸内細菌叢が破綻した際に腸管バリア能の破綻とそれに伴う腸管免疫応答の惹起が見られるかを確認する。
(理由)免疫応答の再現に必要な免疫細胞を年度内に購入予定であったが、購入手続きに時間がかかり、納品および支払いが年度をまたいでしまったため。(使用計画)免疫細胞の購入手続きは進んでおり、補助事業2年目に使用予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
ACS Biomaterials Science & Engineering
巻: 7 ページ: 3648~3657
10.1021/acsbiomaterials.1c00642
ACS Omega
巻: 6 ページ: 24859~24865
10.1021/acsomega.1c03719