現在、多くのがん化学療法にシスプラチン(CDDP)などのプラチナ系抗がん薬が用いられるが、投与患者の約1/3に用量制限因子となる急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)を合併する。AKIは不可逆的な腎障害につながり、後の治療や予後に支障をきたす原因となる。よってAKIを未然に回避するためのバイオマーカーの実用化が急務である。そこで本研究では新たなバイオマーカーの候補としてL-FABP(Liver type fatty acid protein)に着目し、より早期の腎障害モニタリング法の開発を目指して着手した。 まず尿中L-FABPの取扱いについての注意点を明らかにするため安定性についての検討を実施した。まず、実際の患者検体を得た後の搬送、保管条件について検討するため、健常成人の尿を用いて尿サンプルを室温および保冷条件下に0~24時間置いた時の継時的なL-FABPの濃度変化を検討した。その結果、常温におけるL-FABPの安定性に懸念があると考えられ、尿検体について-80℃に保存することが最適と判断した。 次に、患者検体について収集するため、主に食道がん患者を対象としてFP療法(シスプラチン+5FU)を施行する患者を抽出し尿検体および保険診療の範囲内で生じる血液残検体を入手した。14人の患者について、L-FABP、血清クレアチニン、尿中クレアチニン、血清シスタチンCなどの項目を免疫学的測定法により定量し解析を実施した。その結果、最も鋭敏に反応すると予想された尿中L-FABP値について、化学療法開始時のベースライン値が高い場合ほど化学療法による腎機能への影響が大きくなる傾向がみられた。しかしながら、統計的な判断をするためには症例数が不足しており今後さらなる症例数の積み重ねが必要となる。
|