研究実績の概要 |
肝機能障害の進行機序を①危険因子への曝露, ②免疫応答の亢進, そして③病態進行の連結として捉えると, 3層からなるネットワークとして考えることができる。各層の役者はよく理解されている一方, 入力と出力の対応関係は整理されておらず, そもそも比較可能な知見が存在しない。多様かつ比較可能な知見を集めることで入力から出力までの経路の共通点や相違点が明らかとなる。本研究では, 低分子化合物を用いて比較可能な肝機能障害モデル群を樹立することを目的とする。 2021年度は候補化合物群のin silicoによる一次スクリーニングとin vivoによる二次スクリーニングとに取り組んだ。TGGATEs等のラット毒性データベースを対象に因子分析を行い, 様々なスペクトルを持ち肝機能障害を惹起する候補化合物群を5群見出した。見出した群に所属する代表的な化合物をマウスのin vivo試験 (生化学検査値) により評価したところ, 興味深いことに半数の化合物にてそもそも肝機能障害が惹起されなかった。惹起しない化合物についてはLD50を超える濃度であっても惹起されないことが多かった。そこで戦略を変更し, マウスとラットを分けて, 多様な肝機能障害モデルの作出に取り組むこととした。研究拡充のため, 新学術領域研究「先進ゲノム支援」の支援を受け, 多様な化合物処理を施した際のマウス肝臓, 及びラット各種免疫細胞のトランスクリプトームデータを取得した。前者は文献調査に基づいて化合物を選出し, これら化合物による肝機能障害様式の相違点をデータ駆動型に判別するためのものである。後者は既存のラット毒性データベースを利活用し, 当該データに免疫細胞の情報を付与するためのものである。2022年度はこれらのデータに基づき, マウス・ラットそれぞれについて化合物で惹起する肝機能障害の多様性を評価する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に取得した様々な化合物処理を施したマウス肝臓のトランスクリプトームデータの解析を中心に, 計画通り候補化合物群の肝機能障害に関する多様性の評価を進める。また取得したラット免疫細胞のデータを用い, 既存のラット大規模毒性データベースをに, 化合物処理による免疫細胞の挙動を推定する方法論を確立する。これにより当初の計画に加え, 「肝機能障害における免疫応答と病態進行の関係性」を別角度から解析可能になると期待される。一方, これらの研究を実施する人材の確保・育成は急務であり, 教育体制の整備等を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響によりオンライン学会が多く, 旅費をほとんど使用しなかったこと一因として挙げられる。また研究計画の微修正時に先進ゲノム支援を活用したことも要因である。軌道修正により2022年度の予算は当初の計画どおりに進める。今年度の繰り越し分は, 当初の研究計画に加えて先進ゲノム支援により得られた知見に基づき, 本研究をより充実するための試験に充当予定である。
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