研究実績の概要 |
肝機能障害の進行機序を①危険因子への曝露, ②免疫応答の亢進, そして③病態進行の連結として捉えると, 3層からなるネットワークとして考えることができる。各層の役者はよく理解されている一方, 入力と出力の対応関係は整理されておらず, そもそも比較可能な知見が存在しない。多様かつ比較可能な知見を集めることで入力から出力までの経路の共通点や相違点が明らかとなる。本研究では, 低分子化合物を用いて比較可能な肝機能障害モデル群を樹立することを目的とする。2021年度には, 本研究目的のために2種類のデータを取得した。2022年度はこれらのデータを解析した。 一つ目はマウスのデータであり, 文献調査に基づいて選出された化合物群を処理した際のトランスクリプトームデータと, 対応する肝臓中の免疫細胞データ, 及び生化学検査値である。本データの解析により, 比較的少数ではあるものの, 化合物により様々なスペクトルの肝機能障害を惹起した際の免疫細胞の挙動をデータ駆動型に評価可能となる。解析の結果, まず全体的な傾向としてALT上昇時に好中球が増大することを確認した。興味深いことにこのとき単球が続くものとそうでないものに分かれることを見出した。二つ目はラット免疫細胞のトランスクリプトームデータである。同データを用いることでバルクのトランスクリプトームデータを入力に試料内の免疫細胞比率を推定するデータ解析手法Deconvolution法が可能となる。取得したデータにより確立したラットのDeconvolution法を用いてラットの大規模毒性データベースであるOpen TG-GATEs収載のトランスクリプトームデータを解析し, 得られた免疫細胞のデータを用いてクラスタリングを実施した。結果, 同データベースの化合物が誘導する免疫細胞の挙動は, 4クラスターに分かれることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究対象はマウスのみであったが, ラットへと拡張され, そのどちらについても本研究の目的である肝機能障害時の免疫細胞の協奏的な挙動の理解に資する知見を得たため。また本研究で取得したマウス, 及びラットのデータは, 既存のDeconvolution法に対して重要な知見を与えるデータセットとなりうることを見出したため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により, 比較可能かつ複数のスペクトルを持つ肝機能障害モデル群をマウス, 及びラットの双方について樹立することに成功している。一方, 本研究の過程で, バルクのトランスクリプトームデータを入力に試料内の免疫細胞比率を推定するデータ解析手法Deconvolution法について, 以下の二つの課題を見出している。第一は既存のDeconvolution法が血液やがんを主に対象としており, 組織への適用の知見が乏しいことである。組織の場合, 特に血液とは異なり組織の実質細胞やその他の細胞も多く混入するため, 組織に対しても適用が可能かどうか不明となっている。同じ課題意識を持つ文言はいくらかの論文報告で認められたものの, 具体的に検証はされていない。第二に, 現状ではDeconvolution法に資するラット免疫細胞のトランスクリプトームデータが存在しないことである。先の組織への適用可否についての知見が乏しいこともあり, 現状ではOpen TG-GATEsのような多様な状態の組織トランスクリプトームデータをDeconvolution法で解析できない。本研究で取得したデータはこれらを解決するものであり, 今後上記二つの課題解決に向けた研究を推進していく。
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