研究課題
本研究では、リン脂質の多様性に寄与する酵素のうち、肝臓での発現量が低く、機能が十分に解明されていない「lysophospholipid acyltransferase 10 (LPLAT10、別名LPCAT4、LPEAT2)」に注目した。そして、LPLAT10をマウスの肝臓において高発現させ、糖尿病に対する治療効果を検証した。LPLAT10を肝臓において高発現させるベクターとして、研究代表者らが以前に開発した肝障害性が低く、長期に渡って目的遺伝子を発現可能な改良型アデノウイルス(adenovirus; Ad)ベクターを選択し、LPLAT10を搭載したAdベクター(Ad-LPLAT10)を作製した。耐糖能について検討するため糖負荷試験を行ったところ、Ad-LPLAT10群では糖負荷後のインスリン分泌量が増加し、血糖値の上昇が抑制された。このメカニズムについて検討するため、Ad-LPLAT10を投与後のマウスの血清を用いてマウスインスリノーマ細胞株を培養し、グルコース刺激下におけるインスリン分泌量を測定したところ、コントロール群よりもインスリン分泌量が増加した。Ad-LPLAT10投与後のマウスの肝臓におけるリン脂質およびリゾリン脂質を解析したところ、ドコサヘキサエン酸を有するリン脂質が増加していた。そこで、ドコサヘキサエン酸をマウスインスリノーマ細胞株に作用させたところ、高濃度グルコース刺激下においてインスリン分泌量が増加した。したがって、LPLAT10の肝臓における高発現は、肝臓内のリン脂質の脂肪酸組成の変化を介して、グルコース依存性インスリン分泌を促進することが示された。本研究成果より、LPLAT10は、食後のインスリン分泌を増加させることで食後高血糖を抑制するため、糖尿病に対する新しい治療標的となる可能性が見出された。
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The FASEB Journal
巻: 38 ページ: 1-16
10.1096/fj.202301594RR